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    今週の一枚 [Alexandros]『ALXD』

    今週の一枚 [Alexandros]『ALXD』

    [Alexandros]
    『ALXD』
    2015年6月17日発売



    徹頭徹尾、むちゃくちゃカッコいいロック。
    巨大なロマンチシズムが溢れ、唯我独尊のパワーに溢れ、「今、ナンバーワンのバンドは誰だ」という概念を塗り替えるんだという意志に溢れる、言ってしまえば無敵状態に突入しているロックアルバムだ。

    ただ一方で、そんな強さはこれまでの[Alexandros](過去作はもちろん[Champagne]名義ですが)のアルバムにもあった、とも言える。

    では、これまでの彼らのアルバムになく、本作『ALXD』にあるもの――つまり、本作を2015年を代表するロックアルバムたらしめたものは何なのだろう。
    それはこの2つの要素だと僕は考えている。

    「アレンジ」と「デザイン」。

    いや、アレンジはもともと上手で自由で、かつシャープでカッコいい。彼らはそもそもそういうバンドだったが、ここにきての精度は凄まじく、全編に最高に美しいアレンジが施されている。
    美しいというのは、ストリングスがどうとか、音の作りが美しいということとも少し違う。
    展開がいちいちスリリングで、「あ、こうくる」「この展開ありか?」「このキメとギターの絡み気持ちいい」といった、つまりは「フック」がバシバシ決まっていく、ということだ。
    しかも少しもドヤったところがなく、決まるべき球がまるで糸を引くように決まるべき場所に収められていく感覚。
    展開しまくる流れと細かな「一手」がこれしかないというかたちで楽曲を支えていく。
    アレンジ的にこれだけ練られ、かつロックとしてのパワーを失わずむしろ爆発させることにつながっているロックアルバムははっきりと稀有だと言える。

    しかし、それは[Alexandros]のアレンジ力がある日突然ニョキっと増幅されたということではなく、むしろ川上洋平の楽曲自体に訪れた変化を読み取るべきなのではないか。
    川上洋平は「最近、詞とメロディが一緒に生まれてくる」という話をよくするが、おそらく、その段階でアレンジの種もまた曲の骨子に組み込められているのではなかろうか。
    その変化が「フィジカル」という概念を生んでいる。
    パンチラインとしてのフレーズには、強い言葉のみならず、強い言葉が乗ったときに最強に輝くパンチラインとしてのメロディがなくてはいけない。
    そんなことは当たり前だが、そんな当たり前がパーフェクトに発想されたとき、そこにはパンチラインとしてのアレンジもすでに埋め込まれている。
    このアルバムでの川上洋平はそのミラクル級の作り込みを「瞬間的に」行っている。
    まったく飽きのこないアレンジと言えるだろう。ゆえに、このアルバムは聞けば聞くほどカッコよくて、むちゃくちゃに美しい。

    そして、さらに。
    そんな楽曲が14曲並べられたときのトータルでの完成度をもって、素晴らしく「デザイン」されているアルバムだと思うのである。
    たとえば、1曲目“ワタリドリ”から雷鳴が空をつんざくようになだれ込む“Boo!”。
    あるいは、3曲目“ワンテンポ遅れたMonster ain't dead”から、ギターのコードワークがつなぐ“Famous Day”。
    インタールードとしての“Buzz Off”から、物語を再び編み出すような“Oblivion”への流れも素晴らしいし、“Oblivion”から本アルバム中もっともストレートなラブソング“Leaving Grapefruits”へのロマン的展開もこれしかないというかたちでプレゼンテーションされる。
    ラストの大団円を織り成す“Run Away”から、ウィニングランのような大きなバラード“Coming Summer”へのつなぎもまたなんて美しいのか。

    曲間の秒数、白井が弾くギターの細かなコードワーク、ストリングスアレンジの余韻、テンポ感の緩急。
    細部の細部に至るまで本当によく練られている。
    僕がこのアルバムでもっとも好きな曲は9曲目の“Leaving Grapefruits”だが、実は1曲頭出しで聞くたびにもったいないことをしている気がする。
    本当は、アルバムトータルの流れの中で聴きたいからだ。

    1曲1曲の作り込みも素晴らしいが、どの曲もすべて「この流れ」で聴いたときに最強のパワーを発揮するのである。
    そのトータルのデザインが何より素晴らしい。
    これぞ「アルバム」である。
    そして、ここまで見事な「アルバム」というのは、[Alexandros]史上、誰がどう見ても最高傑作であると言えるのではないだろうか。

    これはそのデザインゆえだと思うがどこまでも潔く、とても爽やかなアルバムだ。
    突風が自分の真横をすーっと吹き抜けていくような感覚。
    雑踏を歩いているときや、車を運転しているときにでかい音で聴くと、途端に視界が開け、すぱっと晴れ渡った気分になってくる。
    そして、自分までちょっと強くなったような気分になってくる。
    「俺たちがナンバーワン」というたったひとつの確信を火薬でぐるぐる巻きにし、一気に爆発させたようなこのスケールのロックは、2015年のロックシーンにはまだない。
    そして、そんなロックアルバムが実はどこまでも行き届いた、繊細なセンスとアレンジなくして決して完璧にはならなかった、という両面性がまたとてもいいなあと僕は思っている。

    このアルバムは本当に傑作だ。(小栁大輔)
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