CDをデッキに入れ、耳にイヤホンを挿し、歌詞カードを手にし、1曲目“ふがいない夜こそ”の音が鳴り《不甲斐ない夜こそ本当は出口だ》と歌われた瞬間に体中を駆け巡った歓びと感動が忘れられない。「そうだ、これがSUPER BEAVERだ」と、ただひとつ、そう思った。
インディーズバンドとしては異例ともいえる「日本武道館単独公演を即日完売」を経て、こんなに素晴らしい夜があるのか!としきりに感激した2018年4月30日、日本武道館のステージにて発表されたフルアルバム『歓声前夜』のリリース。そのタイトルを聞いた時は、遠足前日の夜のような、待ち望んだ日を迎える直前の期待や幸福感を詰め込んだ作品なのかと思ったが、全くそうではなかった。この夜を越えた明日を歓声と共に迎えられるかは、あなたの「今、どうしたいか?」という考えと「今、どうするのか?」の行動ひとつで変わるものだ。そしてその一歩を、一人ではなく一緒に踏み出そう――ひとりでひっそりと抱える未来への希望を歌うのではなく、あなたと共に迎えたい未来への福音が最高密度で鳴っている。まさにそういう作品だったし、「そうだよな、SUPER BEAVERが作るのならそういうアルバムだよな」と心底思った。
シングル&配信限定シングル“美しい日”、“全部”、“虹”、「あなたたちではなく〈あなた〉と共に」というバンドの芯が伝わる“ふがいない夜こそ”や“ラヴソング”、ライブでの光景が目に浮かぶロックチューン“閃光”、“シンプリー”やクラップが効いた“まちがえた”。ストリングスを交えた壮大なサウンドスケープの中でも変わらずに、聴く人の心に一番近くて一番弱い部分をそっと撫でてくれるバラード“ひとこと”。バンドが今大切にしているものを長年の時を超えて重ね合わせ、ストリングスと共にリアレンジしたメジャー期の楽曲“シアワセ”、友達でも知り合いでもなく互いを高め合える「仲間」への想いを鳴らした“なかま”――どの曲のどのフレーズを切り取ったとしても、その全てにSUPER BEAVERがバンドを続けてきた/続けていく理由が刻まれている。彼らは、あなたを孤独にしてしまう歌を一音だって歌わない。それは、例え紆余曲折あろうとも14年間虎視眈々と歩み続けてきたSUPER BEAVERにとって、「自分たちの音楽であなたと分かち合えること」こそが原点であり、本質であり、軸であり、意味であり、一番の歓びに他ならないからだろう。
《ああ 僕らの歓びは 絶えず歌い続けた歌を あなたまで口ずさんでる今日で/ああ 楽ではない日々の 隙間にそれが一筋でも 光になる歌であればいいな》(“嬉しい涙”)。SUPER BEAVERがここまでひとりひとりと誠実に続けてきた美しくて温かく、優しくて強い想いの交差が辿り着いたそんな歓びの朝を、今作と共に迎えてほしい。そう思わずにはいられない、最高にして最愛の大傑作だ。(峯岸利恵)