今週の一枚 My Hair is Bad『mothers』

今週の一枚 My Hair is Bad『mothers』

音楽にしても何にしても、クリエイティブな作品はゼロから生み出されるものだという話がよくあるけれど、そんなことはない。すべての物事は因果関係から逃れることが出来ないし、孤独でさえも世界との関係を前提に成り立っている。My Hair is Badの自業自得で傷だらけのロックは、消し去ることのできない因果関係を伝えることで力を発揮し、大きなポピュラリティーを獲得してきた。

特設サイト上で収録曲の歌詞を順次先行公開してきたニューアルバム『mothers』だが、冒頭の“復讐”で椎木知仁は《さあ今こそ天罰を/今日も明日も明後日も来月も/背後に気をつけろよ/刺してやるから》という強烈なパンチラインで愛憎入り混じった思いを描き、そして《いつでも次の始まりは/さよならから》と歌っている。まさに因果関係そのものである。鶏が先か卵が先か、ハートが先か股間が先かなんてことは分からないけど、そこには確実に強い結びつきがあったということを、ドタバタゴロゴロともんどりうって転がるロックサウンドに説得力を宿らせながら伝えている。

どういうことかと言うと、マイヘアのロックは決して独りよがりなものには成りえない、ということだ。もう分かったよ、俺みたいなおっさんにまで若い頃のイタい話を思い出させんなよ、と思いながらも、がっつりと巻き込まれてしまう物語とサウンドだけで彼らのロックは出来上がっている。恋愛を経てスレてしまった過程を女性目線で克明に綴る“元彼女として”は、クリスピーに弾ける言葉遊びも絡めて救いのない情景を歌っているけれど、何よりもマイヘアが因果関係を強く大切に抱きしめることができるバンドだということを教えてくれるはずだ。

とりわけ凄まじいのは、イメージの羅列とエクスペリメンタルな音像によって緊迫したムードを生み出す“僕の事情”から、“噂”を経由して、“僕の事情”の予兆ごと悪態まみれで爆発する“燃える偉人たち”へと至るアルバム中盤だ。バンドマンとして生きる日々の抜き差しならない因果関係のリアリティと、マイヘアのスピード感が混ざり合い、同情さえも振り切って転げ回っている。


一方で、自分勝手な思いに憎みきれなさも込めて綴られた“いつか結婚しても”や、最終曲“シャトルに乗って”の、擦り切れるようなロックを鳴らしてなお枯れない豊かなロマンチシズムである。どこまでも引き摺ってしまう因果関係を知っているからこそ、マイヘアは長い人生を見つめることが出来るロックバンドになった。一瞬に燃え尽きるような熱を放ちながら、実は根源的な部分で普遍性を掴み取っているロックアルバムだ。(小池宏和)
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