そういえば、back number・清水依与吏の失恋ソングを「女々しい」と表現する声をめっきり聞かなくなった。まるっきりゼロではないかもしれないが、デビュー当初に比べれば明らかに激減した。
以前にも本欄の「今週の一枚」も触れた(http://ro69.jp/blog/ro69plus/151394)通り、最新シングル曲“ハッピーエンド”は清水が女性の「私」目線の悲しみ越しに「あなた=自分」の悲しみを描いた楽曲であるにもかかわらず、である。
多くのタイアップ露出を通して、「去っていく大切な人/失われていく大切なもの」への懺悔・後悔を綴ったback numberの詞世界に、日本全国の音楽リスナーが「慣れた」というのは当然ある。
が、それはあくまで手段と過程の話であり、それによって日本中がback numberの核にゆっくりじっくりと気づきつつある、というのが正しいと思う。何に?
己の弱さや不甲斐なさと「向き合う」のを通り越して、それらがポップミュージックとして花開くまで、歌詞とメロディと楽曲を真摯に研ぎ澄ませる――その一見倒錯した、しかし極めて切実な表現の姿勢にこそ、back numberにしか描けないロックの根幹が宿っていることに、だ。
そんな彼らの音楽の核心を、今回リリースされる2枚組ベストアルバム『アンコール』の32曲は改めてくっきりと浮かび上がらせてくる。
2011年の1stシングル“はなびら”から“ハッピーエンド”まで16枚の表題曲+配信シングル“黒い猫の歌”を網羅しているのはもちろん、1stミニアルバム『逃した魚』(2009年)からの“春を歌にして”、1stフルアルバム『あとのまつり』(2010年)の“stay with me”“そのドレスちょっと待った”といったインディーズ時代の楽曲まで収録した今作。
それらを単に時系列順に並べるのではなく、ロック/バラードといった曲調によって収録ディスクを分けるのでもなく、back numberの音楽の道程をまったく新しい「2枚組のヒストリーアルバム」としてコンパイルしたような作品だ。
《あなたがここに帰って来ますように》(“fish”)、《君がいればなあって思うんだよ》(“君がドアを閉めた後”)と曲終わりのフレーズが呼応し合うような展開も、《君の毎日に 僕は似合わないかな》と歌う“ヒロイン”から《最初から/あなたの幸せしか願っていないから》(“幸せ”)へ続くことによって生まれる流れも、今作ならではの濃密なセンチメントをかき立てずにはおかないものだ。
そして、“手紙”“思い出せなくなるその日まで”に続けて2枚組のラストを飾るのは“スーパースターになったら”。《君がどこの街に住んでいても/遠くからでもよく見えるような光に》……ライブでもクライマックスに披露されることが多いこの楽曲をアルバムの締め括りに配置したあたりに、back numberの/清水依与吏の「これから」へ向けたメッセージが潜んでいるようにも思えてくる。
ちなみに。back numberと同様、バンドでのデビュー当初から「女々しい」といった風評に晒されながらも、その凜とした歌と楽曲のクオリティ&訴求力によって圧倒的なポピュラリティを獲得し、ついには日本のスタンダードとして評価されるに至ったアーティストを僕らは知っている。小田和正だ。
2016年現在の若い世代の皮膚感覚からすれば信じ難い話かもしれないが、僕が大学生だった頃、“ラブ・ストーリーは突然に”が大ヒットした後の90年代前半でもなお、好きな音楽として小田和正やオフコースの名前を挙げると「なに女々しい音楽聴いてんだ」と周りのロック好きの同世代に笑われる、という時代が本当にあった。
デビュー初期のback numberへ向けられた世間の「女々しい」の声から僕が連想していたのもまさに、そんな自分自身の学生時代の記憶と体験だった。
しかし――back numberは今、その詞曲とサウンドを丹念に磨き上げるのみならず、タイアップも含め積極的に自身の楽曲を日本全国に響かせていくことによって、自らに与えられたレッテルをひとつひとつ無効化して、シーンの王道を確かに歩みつつある。今作『アンコール』に凝縮された彼らの足跡に、改めて最大限の賞賛を贈りたい。(高橋智樹)