今週の一枚 ヤバイTシャツ屋さん『We love Tank-top』
2016.10.31 07:00
ヤバイTシャツ屋さん
『We love Tank-top』
2016年11月2日(水)発売
今年8月、大阪ワンマンのステージ上で発表されたという、ヤバイTシャツ屋さんメジャーデビュー決定のニュース。それは少なくとも僕にとって、天変地異レベルの大事件であった。なにがどうなってそうなったのか、さっぱり分からない。分からないなら分からないなりに、少し理由を挙げてみよう。
1. インディーズ音源タイトルの『ピアノロックバンド』とか、オフィシャルのプロフィールにある「3人組ガールズテクノポップユニット」とか、ふざけすぎで世間を煙に巻きすぎ。
2. ライブ始まりが“喜志駅周辺なんもない”のとき、しれっと登場して図解付きで淡々と笑わせすぎ。つまり肝が据わりすぎ。
3. 要するに学生ノリが強すぎ。そして、メジャーデビューが決まったところで何一つ改まっちゃいない。
いや、面白いのも、2015年の本格始動以降ライブシーンで爆発的な人気を誇ってきたのも分かる。でも、何より本人たちに、全力でメジャーデビューしたいとか、そういう意気込みが感じられなかったのだ。だから、ヤバTのメジャーデビューは大事件だった。
すでに予約殺到という、メジャー初音源にして初のフルアルバム(新録曲含む)『We love Tank-top』。この「今週の一枚」という記事は一応、ディスクレビューとして書くべきなんだろうけれど、特に説明することはありません。“ウェイウェイ大学生”とか“週10ですき家”とか、しばたありぼぼ作詞・作曲の“L・O・V・E タオル”とか、ヤバTの曲はタイトルを見ればどんな歌なのか半分くらいは分かるし、聴けば全部分かります。オープニングでいきなり笑いながら、消費生活相談の窓口にタレコむのだけは控えてください。
イラッとしたり、がっかりしたり、しんみりしたり、ときにウキウキしたり。等身大と言えばこれほどに等身大な表現はない。このアルバムは若者の炸裂するブルースである。全編に溢れるグッドメロディや男女スイッチングボーカルの鮮やかさに触れることすら、この際野暮な気がする。そう言えばこの10月18日、ヤバTの公式ツイッター上には、こんなことが記されていた。
「ただのサークルバンドです。ちっちゃい、大学の施設の中だけで活動してたただのサークルバンドです。これで売れたいなんて思ってませんでした。純粋に音楽を楽しんでただけでした。二週間後にメジャーデビューです。音楽が好きだからやってます。その気持ちが一番大切だという事を証明します。」
当たり前だけれど、一組のアーティストがメジャーデビューを果たすには、世の中のたくさんの人を納得させなければならないし、感動させなければならない。ヤバTのメジャーデビューは、“ネコ飼いたい”のちょっと強引な(だが理由を知れば納得する)泣きメロの感動とは違っていて、「ああ、楽しそうだな」「一所懸命だな」といった、小さな心の震えが人々の間に広がった結果である。ヤバTの3人ですら意図していなかった実績が、すでにこのデビューアルバムには詰まっている。(小池宏和)