今週の一枚 欅坂46『ガラスを割れ!』

今週の一枚 欅坂46『ガラスを割れ!』 - 『ガラスを割れ!』初回仕様限定盤TYPE-A『ガラスを割れ!』初回仕様限定盤TYPE-A


タイトルだけを見れば、あの“月曜日の朝、スカートを切られた”と同等に物議を醸しそうな作品だ。通算6作目、2018年初となる欅坂46のシングル。表題曲はNTTドコモ「ドコモの学割」、「ハピチャン」のCMソングということもあり、dヒッツで独占先行配信が行われた。極めて衝動的かつ挑発的なタイトルを備えながら、その実親切すぎるほどに論理を重ねてメッセージを発信する。そんな秋元康ならではのバランス感覚が発揮された歌詞が、欅坂46というグループの特異にしてポップな性質を縁取っている。

威勢の良いコーラスから始まる“ガラスを割れ!”は、ソリッドなギターリフが前面に押し出されたロック色の強い曲調だ。ただし、華やかなシンセサウンドが折り重なってドラマティックに展開するさまは、あくまでも「ロック色の強い」ポップソングとして体裁を保っている。直情的でシンプルなロックのバンドサウンドに則っているわけではない。いわば「ロック的なるもの」の翻訳である。

尾崎豊の“卒業”を引き合いに出すまでもなく、ガラスを割る行為というのはある世代にとっての衝動的な反抗だった。いちいちニュースにもならないような、世の中にありふれた事件だったのだ。そしてそれは、いつしか前時代的な行為になった。今やそんな理由なき反抗には論理的な説明が必要で、直情的でシンプルなロックにも翻訳が必要だ。どうしても回りくどく鈍重な表現になってしまいそうなところだが、楽曲をとことんフィジカル&エモーショナルに可視化してくれる欅坂46というグループのおかげで、すべての世代に鋭くキャッチーに伝わる表現として結実している。

欅坂46の“ガラスを割れ!”は、前時代的な衝動のデフォルメでもなければ劣化コピーでもない。優れた翻訳なのである。アイドルグループとしてのメカニズムがあればこそ歌える、ロック的なテーマを持った歌なのである。歌詞の中には、校舎の窓ガラスを割れとは書かれていない。《想像のガラスを割れ!/思い込んでいるだけOh Oh!/やる前からあきらめるなよ/おまえはもっとおまえらしく 生きろ!》というメッセージに行き着いているだけだ。あの“サイレントマジョリティー”が《大人たちに支配されるな》と歌われていたことと比較しても、より広く、普遍的に届けられるべき反骨精神のメッセージとして仕上げられているのだ。


さてカップリング曲には、パッケージ全タイプ共通の“もう森へ帰ろうか?”(曲調は幻想的なダンスポップだが、こちらもメッセージ性が強い)のほか、平手友梨奈ソロの“夜明けの孤独”〈TYPE-A〉やゆいちゃんず(今泉佑唯・小林由依)による“ゼンマイ仕掛けの夢”〈TYPE-C〉といった信頼の歌唱による美曲、長濱ねる・尾関梨香・小池美波が日常の中の不思議なマインドトリップに誘う“バスルームトラベル”〈TYPE-D〉といった楽曲がそれぞれに用意されているけれども、個人的にはとりわけ、けやき坂46(ひらがなけやき)1期生による“イマニミテイロ”〈TYPE-B〉と、ひらがな2期生単独による初の楽曲“半分の記憶”〈通常盤〉が興味深い。

日本武道館3デイズを駆け抜け、単独のアルバムリリースも予定されているけやき坂46は、目下実力をメキメキと向上させ、より大きな支持を獲得している最中と言えるだろう。欅坂46の手の内を知り、最も近い場所で研究することができるけやき坂46は、ある意味最強のオルタナティブとして成長しつつある。反骨精神をアイドル視点でしなやかに美しく歌い上げた“イマニミテイロ”は、“ガラスを割れ!”と同じく前迫潤哉とYasutaka.Ishioのタッグによる作曲。また、終わりゆく恋の心模様をダイナミックに描く“半分の記憶”の堂々たる聴き応えも見事だ。グループ内部で明確な対抗勢力が成長するというユニークな構造の欅坂46は、メンバーが健全に対抗心を燃やしながら、今後さらにタフな表現を獲得してくれるのではないか。(小池宏和)
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