今週の一枚 Aimer『ONE / 花の唄 / 六等星の夜 Magic Blue ver.』

今週の一枚 Aimer『ONE / 花の唄 / 六等星の夜 Magic Blue ver.』

ひとりの人間が「変わる」ことは、どれだけの逡巡と勇気を必要とするものなのだろう。Aimerの新曲“ONE”に触れていると、そんなことを考えさせられる。驚くほど開放的で爽快で、ポジティブなエネルギーに満ちた楽曲である。人が成長する過程で「変わる」ことは往々にしてあるけれど、小さな変化の中にも大きなエネルギーが渦巻いているのだということを、この曲は教えてくれる。

2作のベストアルバム『blanc』、『noir』を発表して、8月末にAimerは初の武道館ワンマンを行った。新曲“ONE”はそのアンコールで披露された楽曲だ。ただアップテンポなだけではない。歌詞の端々には敢然と顔を上げる思いが伝い、強くダンサブルなサウンドの推進力を備えている。MVでは、フラッグを振り回し、楽器を奏で、歌い、踊り、走り、物思いに耽る。そんな少女たちの躍動する姿がフィーチャーされていた。

デビュー以来、その類稀な歌唱力とともに、Aimerは内面に渦巻く激情の迸りを伝えてきたシンガーだった。幾つもの眠れない夜と白昼夢を越えて、ベスト盤と初の武道館という節目を越えて、彼女の歌はかつてないほど開かれた、多くの人々の生活に寄り添う歌になった。MVのイメージからも、凛とした響きの曲調からも、それは明らかだろう。Aimerにこの歌を歌わせたのは、他でもなく彼女を支えてきたリスナーである。この曲が人々の背中をポンと押すのと同じように、人々はAimerの変わる勇気をポンと押したのである。

さて、今回のシングルは仕様によってタイトルの曲順も入れ替えられているが、“花の唄”は劇場版アニメ『Fate/stay night [Heaven's Feel]』Ⅰ.presage flowerの主題歌。同シリーズのテーマ曲(Kalafina作品など)や劇中音楽に携わってきた梶浦由記のプロデュースで、壮麗にしてエモーショナルなアレンジとAimerの歌声が深く絡み合う素晴らしいナンバーになった。

また、Aimerのデビュー曲をリアレンジした“六等星の夜 Magic Blue ver.”もまた、新たなスタートラインをイメージさせる収録曲だろう。ビートを控えめにしながら、ぐっとふくよかで自信に満ちた歌声が楽曲のグルーヴを牽引する印象となっている。また、今回のカバー曲は中島みゆきの“糸”。優しげな曲調でありながら、名曲に臆することなく自分自身のレパートリーにしてしまう姿が頼もしい。“六等星の夜 Magic Blue ver.”と“糸”にもそれぞれタイアップがついており、世間に深くポップに根付くAimerの歌の在り方を伝えている。(小池宏和)

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