今週の一枚 THE YELLOW MONKEY『砂の塔』
2016.10.20 07:00
THE YELLOW MONKEY
『砂の塔』
2016年10月19日(水)発売
僕自身、再集結ツアーやフェスでの雄姿にどうしようもなく胸熱くしていたひとりとして、THE YELLOW MONKEYリスタートの象徴たる“ALRIGHT”が始動後一発目のシングル曲だったとしても、まったく異論は抱かなかったと思う。
しかし、『プライマル。』以来実に約15年8ヶ月ぶりとなるシングルの表題曲として彼らは、同名TVドラマの主題歌として提供した楽曲“砂の塔”を選んだ。
自分たちの復活第一弾シングルを「バンドとファンとの密接で美しい関係性の象徴」としてではなく、「世間のど真ん中を妖しく掻き乱すロックバンドからの挑戦状」として提示することを選択したのである。「外に向かって攻めている」と言い換えてもいい。やっぱりTHE YELLOW MONKEYは唯一無二のロックスターだ。
THE YELLOW MONKEYによるドラマの書き下ろし主題歌ということで言えば、“BURN”以来19年ぶりとなる今回の“砂の塔”。
エマが奏でるクリーントーンのアルペジオが、麗しきストリングスの調べと絡み合うクールなイントロの展開。激情のままにアクセルを踏み込むのではなく、抑制の効いたタイトな演奏でメロディを浮き彫りにしていくバンドアンサンブル。《そこに住めばどんな願いも叶うと言われる愛の城》《幸せも裏切りもいつもそばにあるよ/上に行くほど傾いた塔》など、タワーマンションを舞台としたドラマの内容に(聴いてるこっちがびっくりするくらいに)寄せまくった歌詞――。
ロックバンドとしてのアイデンティティを「アピールする」ことを主眼に置くのであれば真っ先に避けるであろう要素が、“砂の塔”には過積載されている。
じゃあ“砂の塔”はロックな曲ではないのか?というと答えはまったく逆だ。ドラマにがっつり寄せたはずの詞世界も、ロックな歪みや獰猛さを濾過し尽くしたような音像もそのすべてが、人間の業も罪深さも受け止めて燦然と輝かせてきたTHE YELLOW MONKEYのロックそのものとして響いてくる。
自らアピールするまでもなく、“砂の塔”の歌とサウンドからは華麗なるロックの凄味が滲んでいる、ということだ。あたかも、これ見よがしのファイティングポーズよりも、格闘の達人の鍛え上げられた自然体のほうが遥かに美しく迫力に満ちているのと同じように。
「たとえば、解散しないで続けてたら、“ALRIGHT”はできてないじゃないですか。だけど、解散しないでそのまま活動続けてたら、“砂の塔”はできてたかもしれないんです。それぐらいの差があるというか。続いてる感じが。道に追いついたというか。混じったというか、ひとつに」
『ROCKIN'ON JAPAN』11月号のインタビューで、吉井は今回の2曲の相違と関係性についてそう語っていた。
THE YELLOW MONKEYの表現に内在するロックとしての強さを、この上なく妖艶な形で証明してみせた“砂の塔”。そして、「THE YELLOW MONKEYは一生解散しません!」とツアー中から吉井が何度も宣言している通り、15年の時を経て再びともに歩み始めた「今」の充実感をダイナミックに物語る“ALRIGHT”。今作に収められた2曲は、4人の「これから」をまっすぐ指し示している。
初回限定盤ボーナストラックのツアー音源、そして同時発売されたライブBlu-ray/DVD作品と併せて、「THE YELLOW MONKEYのいる時代」の喜びを改めて噛み締めていただきたい。(高橋智樹)