今週の一枚 sumika『Familia』

今週の一枚 sumika『Familia』
ポップミュージックの歴史を全身で呼吸して丸ごと抱き締めたような、豊潤で開放的で、そして意欲的な楽曲とバンドサウンド。
「誰もやっていない新しい表現」を求めて奇を衒いタコツボにはまることなく、ファンク/ジャズ/ピアノポップス/メロディックパンクなど多様な音のテクスチャーを丹念に磨き上げることで、他の誰とも似ていない輝度と彩度の「新しさ」を獲得するに至った音楽世界――。
蔦谷好位置プロデュースによる極彩色オープニングナンバー“Answer”から、《扉開けて/誇り持て/踏み出したその足を》と決然と歌い上げる最終曲“Door”まで全14曲。自身初のフルアルバムとなる今作『Familia』でsumikaが伝えてくるのは、「ポップミュージックはその意志と才気によって、どこまでだってあるがままで新しくなれる」という事実だ。

シンガロング必至の眩いメロディに《色付いたアネモネ/綺麗だ/僕は駄目駄目だったけど》のフレーズを重ね、《晴れと雨は/等しく在るものだと/信じ込んで/虹はおろか/おひさまも/遠のいて/いきましたとさ》という寓話的な描写をひときわエモーショナルに歌い上げてみせる“アネモネ”。
ファンキーなビートに乗せて《吸う吸う 吐く吐く 吸う吸う 吐く吐く》のサビをゴージャスに響かせる“KOKYU”――。
曲ごとにガラッと色合いを変えるこのアルバムで終始一貫しているのは、物語と世界観を誤変換やブレなく、しかもダイレクトに伝えてくる片岡健太(Vo・G)の歌詞の筆致だ。

決して情報量の多くない言葉でしかし、聴く者の脳内に高解像度のストーリーと風景を浮かび上がらせる、珠玉の圧縮されたプログラムとしての詞世界。
そのプログラムの最高の解凍ソフトであると同時に、聴き手の心のガードを無効化する万能パスワードの如きバンドアンサンブル。
すべての要素が有機的に絡み合いながら、気がつけば視界がくっきりと冴え渡っていくような多幸感の真っ只中に導かれている。そんな1枚だ。

「例えば100人が聴いたら100通りの風景があるとか、その想像はみなさんの自由ですって言ってしまうのは、ちょっと無責任な気がしていて。自分の中に浮かんでいる光景や心情を、最大限、言葉で表現する努力をして、100人がなるべく同じ景色を思い浮かべられるように言葉は選んで作っていきたいです」

現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』8月号掲載のインタビューの中で、片岡はそんなふうに自らの姿勢を語っている。
《伝えたい 全部あなたに/全部伝えて この言葉よ/迷わないように/伝えたい/今の私の半分以上が/あなたで出来ていたと気付いたから》(“「伝言歌」”)……聴き手の「最大公約数」としての普遍性に頼るのではなく、自らの詞世界とバンドの音楽そのものを普遍的な表現としてリスナー/オーディエンスの中に根づかせ息づかせようとする明確な意志こそが、sumikaのポップの核心なのかもしれない――と思わせてくれる快盤だ。(高橋智樹)
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