全14曲を聴き終えた瞬間、僕らが知っている「アルバム」という表現形態とは一線を画した未知の感覚に誰もが襲われることだろう。前作『Butterflies』から約3年5ヶ月ぶり、通算9作目のオリジナルアルバムとなる今作『aurora arc』はそういう作品だ。
“アリア”、“アンサー”、“リボン”、“記念撮影”、“望遠のマーチ”、“話がしたいよ”、“シリウス”、“Spica”、“Aurora”の9曲がすでにCD/配信シングルとしてリリースされているのに加え、タイアップを通して一部オンエアされてきた“月虹”と“新世界”、さらに公式SNSで段階的に公開されてきた“流れ星の正体”も含め、一部もしくは全体が公開されている楽曲は14曲中実に12曲にのぼる。
もともと前作『Butterflies』以降のドキュメントないしはベストアルバム的なものとして抱いていた作品のイメージが、「オーロラアーク(aurora arc)」というキーワードに出会ったことで(ark=箱舟とarc=弧の思い違いも含め)新たに明快な像を結んだ――というエピソードは、『ROCKIN’ON JAPAN』2019年8月号(発売中)の藤原基央ロングインタビューでも語られている通りだ。
既発シングル曲をコンセプチュアルな世界観を持ったアルバムの中に収めることは、我々が想像する以上に難しい。アーティスト側から発信されて「みんなのもの」になった楽曲を、その楽曲に触れてきたリスナーの時間や生活も全部引き受けた上でアルバムというひとつのパースの中に収めることになるからだ。
だが、今作『aurora arc』には、タイアップ曲群とアルバムの世界観との軋轢も、ほとんどのカードが明かされてしまっているがゆえの既視感も、不思議なくらいに存在しない。
今作に収められているのは、単なる「前作以降の3年あまりの期間の総括」でもなければ、1mmの歪みも許さないアーティスティックなコンセプトの結晶体でもない。
BUMP OF CHICKENが常にひたむきに楽曲と向き合い、リスナーから受け取った想いをまた新たな音楽の糧にしていく、という意思の連鎖によって躍動する4人の感情が、あたかも星の輝きのひとつひとつが星座としての意味を持つのと同じように、必然的な物語を描き出していく――そんなありのままのバンドの姿そのものだ。
言うなれば、ここで新たに作品化されているのは、それこそ作為や意匠では手の届かない領域にある、BUMP OF CHICKENというバンドの、そして藤原基央というソングライターの「在り方」と「宿命」そのものである、ということだ。
世の中の構成材料を書いていきたいんですよ。“アンサー”とかでも歌っていますけど、自分が感じてきたもの、経験してきたことの結果で町ができてると思ってるんですよ。世界は、その人が感じているものが材料となって作られていると思ってるんですよ。だから、曲もそうあるべきだと思うし。
(『ROCKIN’ON JAPAN』2019年8月号より)
アコギ弾き語りというシンプルなアレンジで収録された“ジャングルジム”は同時に、藤原の豊潤なクリエイティビティを鮮烈に感じさせるものだし、聴く者の故郷でもあり希望の風景でもあるようなBUMP OF CHICKENならではの空気感を確かに備えたものだ。
そして、最終曲“流れ星の正体”の最後の余韻が消えた時、「生命のすべてが物語になっていく」というクリアな視野がそこには広がっているはずだ。
渾身の楽曲が己の進むべき「その先」の道を作る――という奇跡の如きサイクルの真っ只中にあるBUMP OF CHICKENだからこそ生み出せた1枚であることは間違いない。(高橋智樹)