今週の一枚 10-FEET 『アンテナラスト』
2016.07.18 07:00
10-FEET
『アンテナラスト』
2016年7月20日(水)発売
《言葉足らずでなければ僕ら 届かないことを知らないから/身を寄せ合うほどに僕らは また傷つけ合いました》
誰もが抱える不完全さと愚かさ。それでも、いやそれゆえに抑え難くあふれる人恋しさ、愛おしさ――僕らの根源をたったこれだけのフレーズで真っ向から言い当てるだけでも驚愕と感激に値するが、そんな言葉が途方もなく雄大なメロディと、魂の業火の如きバンドサウンドとともに轟いた瞬間、心のリミッターはあっさり決壊する。
コラボシリーズ第2弾『6-feat 2』とカバー作品『Re: 6-feat』を挟んで、オリジナル音源としてはアルバム『thread』以来4年ぶり(シングルでは『その向こうへ』以来約5年ぶり)のシングル曲、“アンテナラスト”。最高だ。
『ROCKIN'ON JAPAN 2016年8月号』のインタビューでも、TAKUMA(Vo・Gt)自身「僕個人としてはばあちゃんのこととかじいちゃんのことを思い浮かべてるんですけど、そのふたりが去年亡くなっちゃって。そのふたりにすごい育ててもらったから」と歌詞の背景を語っている。
しかし、TAKUMAのパーソナルな思い出を歌った“アンテナラスト”は紛れもなく、その熱唱に触れた瞬間に「僕らの歌」になっていく。
表に出すには悲しかったり心痛んだりする感情や思考を、聴き手を信頼して露わにすることによって、根源的なテーマへと到達していく――。
そんなTAKUMAのソングライティングの構図は、《母は泣いた手に触れ泣いた/「よかった」と一言また泣いた》というフレーズを一大ロックアンセムへと導いてみせた“RIVER”、《さよならも醜さも 清らかな卑しさも 小さな愛も/その向こうへ》と震災直後の葛藤を突き上げた“その向こうへ”をはじめ、10-FEET歴代楽曲の随所に見ることができる。
そして、音楽における10-FEETのそんな姿勢はそのまま、彼らの活動そのものにもつながっている。
自身主催のフェス「京都大作戦」でも、彼らは「俺たちと一緒に時代を変えていこう」的な威勢のいいアジテーションは一切発しない。ただ、集まったキッズを心の底から信頼して、最高の場所を守るために、困ってるやつがいたら助けてやってくれ、ゴミをひとつでも多く拾って帰ってくれ、と呼びかけるだけだ。
むしろそんな姿勢こそが、強い絆に結ばれた「京都大作戦」という唯一無二の磁場を生み、10-FEET自身を他のどんなロックスターとも異なる大切な存在にしているのである。
新曲リリースこそなかったものの、この4年間「10-FEETが歩みを止めていた」と感じる人はまずいないだろう。ツアーで全国を回り、対バン/イベント/フェスを歴戦しながら、そのステージ越しに魂の最高記録を更新し続けてきた。
そんな3人の「今」の爆発力と反射神経を証明するようなカップリングの2曲=“skatting”“BombBassKinny”も痛快だが、彼らが4年ぶりに放つニューシングルの表題曲として“アンテナラスト”を選んでくれたことが、素直に嬉しい。(高橋智樹)