驚くほどにシンプルに磨き上げられていながら、驚くほどにあ〜ちゃん/かしゆか/のっちの3人のリアルが情感豊かに伝わってくる。エモーションと快楽をいかに正確に記号化し結晶化させるか、というポップミュージックの命題において、恐るべき完成度を達成するに至った1枚。『COSMIC EXPLORER』以来約2年4ヶ月ぶりとなるPerfumeの新作アルバム『Future Pop』はそういう作品だ。
すでにシングル表題曲“TOKYO GIRL”、“If you wanna”、“無限未来”とそれぞれのカップリング曲“宝石の雨”、“Everyday”、“FUSION”という計6曲の形で新作アルバムの方向性を予感させるカードが切られていたので、クラブミュージックの世界を席巻しているジャンル=フューチャーベースを導入した作品になることは誰もが感じていたことと思う。
だが、今作の音楽世界の中では、フューチャーベースはあくまで中田ヤスタカがPerfumeに託した「ポップの究極形」を作り上げるためのひとつのツールにすぎない。Perfumeの3人と中田ヤスタカが今作で実現したのはつまり、「永遠の近未来性」とでも言うべき不変の輝度そのものだ。
「近未来性」は、10年後20年後といった具体的な時代との比較や相違によって位置付けられるものではない。たとえばデヴィッド・ボウイが『スペイス・オディティ』で体現していた「近未来性」は、半世紀近い時を経た今でも「あの時代においては先駆者だった」という但し書きを必要としない生々しさを有しているし、それこそ「無限大」が不可算の概念として扱われるのと同じように、「誰も追いつけない『その先』を常に示し歩き続ける」という意識と覚悟の必然としてのみ、音楽の「近未来性」は内包され得るのだろう。
フューチャーベースというアレンジのスタイルだけに限定して見ればむしろ、10年後20年後のリスナーから見れば「そういえば2010年代後半にはこういう音が流行ってたね」とある種の懐かしさをもって回想されるポイントになっていくはずだ。
今作においてフューチャーベースという手法はむしろ、「遥か遠いフィクション級の未来」ではない同時代感を担保する要素であると同時に、Perfumeという表現をポップの完全体へと導くための砥石であり、3人の晴れやかな(そして不屈の)挑戦精神とそこに宿る「永遠の近未来性」を浮かび上がらせるために最適な装置でもあった、ということだ。
「Future」というワードをアルバムタイトルに冠したのは取りも直さず、その「近未来性」は憧れの対象ではなく今やPerfumeという表現そのものだ、とメンバー3人と中田ヤスタカが実感し得たからだろう。そう思わせる高純度の多幸感が、今作には確かにある。
超来輪 超来輪 したいことだらけで
ほらね ほらね 止めようがないもんね
(“超来輪”)
何をしても 何かが足りないの
ボクにまだ 羽が生えないのも
どれもとても 理由には遠すぎて
羽ばたきたい(高く) 飛びたい(高く)
(“天空”)
東京(あ〜ちゃん)/ロンドン(かしゆか)/ニューヨーク(のっち)が5G回線経由で「遠隔共演」してみせた、ドコモとのコラボプロジェクト=「FUTURE-EXPERIMENT VOL.01 docomo×Perfume 距離をなくせ。」。
最新解析技術を駆使してPerfumeの歩みそのものを再定義してみせた、今年3月のNHKホール公演「This is NIPPON プレミアムシアター『Perfume × TECHNOLOGY』presents "Reframe"」。
自分自身という存在を時代と技術のキャンバスとして差し出すことで、3人の感情と意志が自然と革新性を帯びた表現として昇華されていく――そんなマジカルなサイクルを、Perfumeは今この瞬間も加速させ続けている。今作はまさにその象徴だ。(高橋智樹)