今週の一枚 パスピエ『トキノワ』
2015.04.27 08:00
パスピエ
『トキノワ』
2015年4月29日発売
パスピエはすべてを「必然」に変えてしまうバンドだ。彼らを見ていると、ありとあらゆるチャンスや結果が、まるで最初からロードマップの一部として描かれていたような感覚を覚えることがある。この“トキノワ”もそう。アニメ『境界のRINNE』のエンディングテーマとしてオンエアされている楽曲だが、そうしたタイアップが舞い込んできたのも、その結果生まれた曲がパスピエ史上もっともポップで開かれたものになっているのも、決して偶然ではない、と思わされる。なぜか。それは彼らにとって目指すべきもの、進むべき道が、最初からクリアだからだ。そして生まれてくる偶然を必然的なストーリーの中に回収していくためのクレヴァーさとセンスが備わっているからだ。
パスピエの頭脳でありすべての楽曲を作曲している成田ハネダは、ポップソングを狙い澄ましてロジカルに書ける才能を持つ数少ないソングライターのひとりだ。まず初めに明確なヴィジョンとテーマがあって、そのために感性と知識と技術を総動員して目的地へまっすぐに向かっていく。それだけだったら頭でっかちで退屈な音楽になってしまうところだが、そこに大胡田なつきという個性的なシンガー兼作詞家が生み出す歌声とイメージ、そしてメンバーそれぞれの演奏というある種のゆらぎが重なることで、楽曲にポップさと奥行きと肉体性がもたらされる。それがパスピエの「パスピエらしさ」だ。
その「パスピエらしさ」を、彼らは作品を重ねながら作り上げてきた。インディーズデビュー作『わたし開花したわ』、メジャーに移籍して発表された『ONOMIMONO』、そして初のフルアルバム『演出家出演』から『幕の内ISM』に至るパスピエの作品を振り返ると、そこには大きな矢印が浮かび上がってくる。パスピエの「パスピエらしさ」が発見され(『わたし開花したわ』)、洗練され(『ONOMIMONO』)、確立し(『演出家出演』)、エスカレートしていく(『幕の内ISM』)さまが、ヴィヴィッドに作品に反映されているのがわかる。楽曲はより個性的に、そして同時に非常にバンド的でポップなものに。歌詞に表象される世界観は不思議さを保ったまま普遍的で具体的なものに――そうやってパスピエは進化してきた。そして“トキノワ”はその「パスピエらしさ」がこれまでにない高いレベルで表現された、いわば最初の到達点ともいえる楽曲だ。
アニメのエンディングということを意識したのだろう、キーボードのリフで耳を掴むイントロ、一転してしっかりと歌を聴かせるAメロ、ドラマティックに展開するBメロ、そして転調と大胡田のハイトーンによって一気に世界観を広げるサビと、理想的なポップソングの形を取りながら、同時に細部に宿るパスピエとしての記名性、つまり「パスピエらしさ」は強まっている。アニメのストーリーをしっかりと踏まえながら独自の言語感覚を発揮する歌詞も含めて、タイアップというチャンスを最大限に活かしながら、それを逆手に取るような形でロードマップを一歩先へと進めている、“トキノワ”にはそんな印象をもつ。おそらくこれまでの楽曲に比べても初めて彼らに出会う人が多いであろうこの曲で、パスピエは広いリスナー層に自分たちを発見してもらうこととパスピエらしさを全力でアピールすることを両立させることに成功しているのである。
《巡り会い 巡れば巡る くるりくるり隣り合わせ/偶然はわざと 運命のしわざと》――輪廻転生をモチーフにした歌詞は期せずしてパスピエの本質を歌ってもいる。「偶然」を「運命」に変えてしまう知性とヴィジョン。パスピエの何たるかが詰まったシングルだ。(小川智宏)