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    今週の一枚 FLiP

    今週の一枚 FLiP

    FLiP
    『MADONNA』



    7月30日に配信になったFLiPのシングル「MADONNA」は、僕は画期的な曲だと思う。

    とてもカラフルでしなやかでロックの芯があってポップな曲で、
    特に過激な部分や実験性にあふれているわけでもない。
    普通にいい曲じゃない? 画期的っていう言葉は似合わないんじゃない?
    と言われるかもしれない。


    でも僕の印象か違った。
    このシングルは、今のJ-ROCKの一つの大きな扉を開ける1曲だとすぐに感じた。
    そして、どちらかと言うとオーソドックスなロックをやっていると思っていたFLiPが、こういうシングルを出したことに少なからず驚いた。


    その理由を書く。


    今、新世代のロックバンドを中心に「四つ打ち」の「バンドサウンド」が流行っている。
    形態はあくまでもロックバンドなんだけど、リズムは四つ打ち、というスタイル。
    なぜ流行っているかといえば、ライブで盛り上がるからだ。
    なぜ盛り上がるかといえば、気分が上がりやすくて、からだも動かしやすくて---
    つまり踊れるからだ。
    それは、四つ打ちが心臓のビート、脈打つ血液のビートとシンクロしやすいからだ。
    人は、四つ打ちのビートを聴くとテンションが上がるのである。


    だが、ロックバンドが曲自体を四つ打ちにするとひとつ問題が生まれる。
    それは、曲がワンパターンになってしまう、あるいはそう聴こえてしまう、ということである。


    だから、チャットモンチーも「シャングリラ」みたいな曲は連発しないし、
    アジカンも「君という花」みたいな曲はそうは書かない。


    テクノやハウスといったダンスミュージックは踊るための音楽だから、
    その機能を果たすためにいくらでも四つ打ちのビートを量産できるが、
    ロックは踊らせるためだけの音楽ではない。
    そこが難しいところで、新世代のバンドたちもそうしたことに向き合っている人達もいる。


    で、FLiPのシングルに話を戻すと、
    この曲はバンドのビート自体を四つ打ちにするのではなく、ギターのリフの刻み方や、リズム隊とのアンサンブルの作り方で、「曲の背後に四つ打ちのシーケンスを感じる」ような構造になっているのだ。
    四つ打ちのリズムに縛られずに自由に楽曲のテイストを表現しながら、
    聴き手にダンスビートを体感させる、という作り方になっている。


    一つのビート感でベタッと押し切るような楽曲が日本のロックには多いが、
    サウンドはロックで、16ビートのファンキーなノリがあって、しかもベースに四つ打ちのシーケンスを感じさせるポップ、
    というこの曲はなかなかに画期的だ。
    ハイムやヴァンパイア・ウィークエンド、フォスター・ザ・ピープルといった欧米の新世代ポップの基準にアップデートされたポップソングがようやく日本にも出てきた、という言い方もできる。
    FLiPに対する認識を改めさせられた。
    山崎洋一郎の「総編集長日記」の最新記事
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