今週の一枚 back number『シャンデリア』

今週の一枚 back number『シャンデリア』 - 『シャンデリア』通常盤『シャンデリア』通常盤

back number
『シャンデリア』
2015年12月9日(水)発売



『シャンデリア』は“SISTER”で始まり、“手紙”で終わる。ちょっと乱暴だが、ある意味、そこに、このアルバムのすべてがあるといってもいい。“SISTER”も“手紙”も、今年back numberがいくつもチャレンジしてきた大型のタイアッププロジェクトの中で生まれてきた楽曲だ。“SISTER”は「ポカリスエットイオンウォーター」のCM曲、“手紙”はNTTドコモのCM曲である。どちらもがんがんTVで流れていたが、つまり、これらはあらかじめ「開けた」、つまり「誰か」の求めに対して、「誰か」に向けて書いた曲である。それは作るプロセスだけの話ではなくて、楽曲のテーマとしても、この2曲は対象に向けての明確なメッセージとなっている。

決してback number的、清水依与吏的ではない《負けないで》という言葉をあえて使った“SISTER”、そして愛されたいと歌い続けてきた清水がおそらく初めて素直に《愛されている事に/ちゃんと気付いている事/いつか歌にしよう》と綴った“手紙”。常に一人称単数の歌を鳴らし続けてきたback numberが、「あなた」を勇気づけたり、「あなた」への感謝の念を素朴に歌ったりしたこの2曲が最初と最後に位置づけられた『シャンデリア』とは、要するにback numberと「あなた」のアルバムなのである。単に恋愛の対象というだけではない、よりたくさんの「あなた」に、このアルバムは歌いかけるのだ。

シャンデリアは自分だけで光ることはできない。何かの光源があって、あの美しい輝きは生まれている。その光源は儚いろうそくの火だったり、小さな電球だったり。生まれた瞬間から華やかなわけでも、あらかじめ至上の輝かしさを約束されているわけでもない――それは清水依与吏自身の比喩でもあり、同時にこのアルバムを受け取るひとりひとりの比喩だ。そしてそんな小さな光たちが寄り添って美しい輝きを放つ、この世界の比喩でもある。自分だけではなく、「あなた」の中にある光を輝かせること。back numberがこのアルバムで手にしたのは、そんなポップアーティストとしての強さである。

もちろん、これまでの作品と同じように、このアルバムにもさまざまな恋愛も風景が描かれるし、情けない主人公も登場する。その多くは決して幸せな状況ではない(というか、平穏無事な恋愛なんてこのアルバムにはひとつも描かれていない)が、それぞれの楽曲がちゃんとその状況に落とし前をつけながら前に進んでいる。閉じこもっていないのだ。だからこのアルバムはただの共感ではなく、大きな共鳴を生み出すだろう。波が重なって増幅されていくように、back numberはもっとたくさんの人にとって大事なバンドになっていくだろう。これはこれまでとはスケールの違う、究極のback numberアルバムだ。(小川智宏)
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