今週の一枚 ASIAN KUNG-FU GENERATION 『荒野を歩け』
2017.03.27 07:00
胸突き上げる切なさも、日々を苛む焦燥感や劣等感も、すべてがキラキラと乱反射し合うような、ロックとポップの理想そのもののような音の風景。
『サーフ ブンガク カマクラ』よりもスコーンと爽快に突き抜けたパワーポップであり、アジカン20年史の「その先」を突っ走る躍動感に満ちたタフなロックナンバーでもある——。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONが2017年第1弾シングルとして放つ楽曲であり、アニメーション映画『夜は短し歩けよ乙女』の書き下ろし主題歌でもある“荒野を歩け”。
「甘酸っぱくも不思議な世界観の作品に馴染むように、ちょっと変だけど爽やかな曲を書きました」とゴッチ自身は至ってシンプルにコメントしているが、ラフな開放感に満ちたこの楽曲には確かに、アジカンが20年間で体現してきた音楽の核が鳴っている。
結成20周年アニバーサリーイヤーの目玉でもあった、2ndアルバム『ソルファ』再レコーディング盤の制作が、自らの音楽を構成するパーツを解体&検証して磨き上げた上でボディを再構築したようなビルドアップ感をこの楽曲に与えていることは想像に難くない。
しかし、この曲で際立っているのはやはり、《あの娘がスケートボード蹴って/表通り 飛ばす/雨樋 するっと滑って/ゆるい闇が光る》や《町中のかがり火を/胸の奥に灯して/この世のエッジに立って》といったクール&リリカルな情景描写に象徴される、行き場なき衝動も苦悩も受け止めて溌剌としたポップへ昇華しようとする意欲だ。
僕らが生きる時間と場所はすべてがポップな物語の舞台であるということを、ありったけの批評性でもって指し示そうとしている——と言い換えてもいい。
ちなみに、映画『夜は短し歩けよ乙女』は、可憐で酒豪で天真爛漫なクラブの後輩:「乙女」と、彼女に想いを寄せるあまり「なるべく彼女の目にとまる=“ナカメ作戦”」を日々実行する「先輩」を軸に繰り広げられる、ファンタジック&サイケデリックな青春(?)コメディ。
何をやっても人を魅了する「乙女」と裏腹に、何をやってもドタバタでピエロ役にしかなれない「先輩」にしてみれば、この世はまさに荒野そのものにしか見えないことだろう。
《理由のない悲しみを/両膝に詰め込んで/荒野に独りで立って/あっちへ ふらふら また/ゆらゆらと歩むんだ》
そんな“荒野を歩け”のフレーズは、ひたすら悲喜劇の真っ只中をダッチロールする「先輩」の煩悶だけでなく、日常を生きる僕らの憂いにもしっかり寄り添ってくれる強さと生命力に満ちている。
ぜひとも一度『夜は短し歩けよ乙女』のエンドロールとともに聴いてみることをお勧めしたい。(高橋智樹)