一方、完全に開けているわけでもなく、よく聴くと転調が異様に多いし、コード進行もメロの展開も特殊で、迷路の奥へ奥へと自ら進んでいっているように聴こえるのが面白い。『ROCKIN’ON JAPAN』2019年10月号のインタビューによると、“馬と鹿”の制作に取り掛かったのは“海の幽霊”(本シングルのカップリング曲。かつ、米津が多大な影響を受けた漫画を原作としたアニメ映画『海獣の子供』の主題歌として書き下ろした曲)を作り終えたあとだったらしく、本人曰く、燃え尽き症候群になり、「頭がおかしくなってた」感じがそこに出ている、とのこと。しかし結果的に、曲がり道ばかりの展開は華やかな栄光の裏にある葛藤の積み重ねを体現しているように思うし、また、(これまでの曲にも見られた)広く行き渡る役割を持った曲にさらりと異物を混入させる、少し風変わりなものもポップソングとして成立させてしてしまう米津の手腕・センス・思惑みたいなものも見て取れる。“海の幽霊”は映画主題歌としても米津の新曲としてもこの上ない出来だったが、いつものカップリング曲と同じように自由なテンションでありながらも、いつもとは違ってかなりシリアスな内容である“でしょましょ”にも注目しておきたい。人間の根源的な力強さを歌った“馬と鹿”と、人智の及ばない領域に対する畏怖を表した“海の幽霊”。そして無我夢中になることの美しさを讃える“馬と鹿”と、熱にあてられ正常でなくなった状態の危険性を捉えた“でしょましょ”。このようにカップリング曲はいずれも表題曲と対になっているようだ。(蜂須賀ちなみ)
【今週の一枚】米津玄師はシングル『馬と鹿』収録の3曲で新たな時代の幕開けに何を歌ったのか?
2019.09.10 12:45
一方、完全に開けているわけでもなく、よく聴くと転調が異様に多いし、コード進行もメロの展開も特殊で、迷路の奥へ奥へと自ら進んでいっているように聴こえるのが面白い。『ROCKIN’ON JAPAN』2019年10月号のインタビューによると、“馬と鹿”の制作に取り掛かったのは“海の幽霊”(本シングルのカップリング曲。かつ、米津が多大な影響を受けた漫画を原作としたアニメ映画『海獣の子供』の主題歌として書き下ろした曲)を作り終えたあとだったらしく、本人曰く、燃え尽き症候群になり、「頭がおかしくなってた」感じがそこに出ている、とのこと。しかし結果的に、曲がり道ばかりの展開は華やかな栄光の裏にある葛藤の積み重ねを体現しているように思うし、また、(これまでの曲にも見られた)広く行き渡る役割を持った曲にさらりと異物を混入させる、少し風変わりなものもポップソングとして成立させてしてしまう米津の手腕・センス・思惑みたいなものも見て取れる。“海の幽霊”は映画主題歌としても米津の新曲としてもこの上ない出来だったが、いつものカップリング曲と同じように自由なテンションでありながらも、いつもとは違ってかなりシリアスな内容である“でしょましょ”にも注目しておきたい。人間の根源的な力強さを歌った“馬と鹿”と、人智の及ばない領域に対する畏怖を表した“海の幽霊”。そして無我夢中になることの美しさを讃える“馬と鹿”と、熱にあてられ正常でなくなった状態の危険性を捉えた“でしょましょ”。このようにカップリング曲はいずれも表題曲と対になっているようだ。(蜂須賀ちなみ)