もうすぐ2020年が終わる。未知なる脅威の存在により世界が一変した年。
生活様式は変わり、多くの人が傷つき、疲れ果てた。
何か情報に触れようとすると、瞬く間に飛び込んでくる感染者数のニュースや「家にいよう」という声。
数々のバンドやアーティストが予定していたライブも軒並み中止、もしくは延期。
生のライブは聖域となった。
世の中が一斉に自粛モードとなった時期のこと。ゴールデンボンバーのボーカルである鬼龍院さんは、自粛期間とは思えないほど主体的に制作活動を営んでいた。
自らも出演する「癒し&安眠のための動画」を制作してはYouTubeに次々とアップしたり、新曲「バブルはよかった」では、ミュージックビデオをフリーイラストサイト「いらすとや」の素材だけで構成させるなど、自粛期間でもゴールデンボンバーらしさたっぷりにファンや世間を楽しませてくれた。活動は話題性を呼び、鬼龍院さんはリモート形式で数多くの取材を受け、メディアにも多数出演していた。
何事にも精力的な鬼龍院さんだったが、ふと、他の有名人とは圧倒的に異なる点があることに気づく。それは、コロナの話題において「働きかけない姿勢」をとっているということ。
社会には「風潮」みたいなものがある。言わないといけない風潮。やらないといけない風潮。
あらゆる有名人が、「手を洗おう」、「家にいよう」と繰り返し語りかける。しかし、鬼龍院さんはコロナについて積極的に語ることをしなかった。それどころか、「コロナ」というワードさえ使わない。コロナのことを「アレ」や「ウィルス」と表現するほどの徹底ぶりも見られた。コロナについて話を求められたときにやむを得ず話す場面はあれど、自らの意思ではコロナの「コ」の字も発さない。
テレビをつけてもツイッターのタイムラインを見ても、情報はあふれかえり、殺伐としていた当時。コロナの恐ろしさを知ること、自己防衛することはもちろん大切だ。その上で、憧れの有名人に「家にいよう」と声高に言われると、どんな政治家や偉い人に言われるより効果てきめんかもしれない。
さらに、「みんなでがんばって立ち向かおう!」と言う精神は、社会からも称賛を得られるような行いだ。実際、コロナが流行し始めた当初は声を上げなければならない時であったのは確かだし、声を上げることで適切な行動が広がれば素晴らしいことだとも思う。でも、鬼龍院さんはその上で声を上げない姿勢を貫いているように見えた。
ただ、そんな鬼龍院さんの口から鮮明に聞こえてきた言葉がひとつだけある。それは、「今できることを…」という言葉だ。この言葉は、SNSでもインタビューでも、度々口にしていた。
コロナにおける注意喚起を言うことが正義とか、言わないことが悪だとか、そういう話ではない。こんな時代でも「今、自分にできることをする」というこのスタンス。
社会によりかからず、できないことに目を向けるのでもなく、自粛という概念から自立しているような姿勢。それは、「自分」を軸にしてすっくと立っているような姿に見えた。
観客を入れたライブはもちろん、人に会うことすら罪のように扱われていた当時。制限された世の中は窮屈で、心も擦りへる。
そんな時でも鬼龍院さんは、社会ではなく「自分」に軸を持ってきていたからこそ、制限の中でもたくさんの創作物が生まれたのかもしれない。
コロナが収束すること、自由な世の中が戻ってくることを楽しみに待つのは良い。
その上で今、何ができるか?
そう考えられることが、この時代に自立して過ごすことなのだと思う。社会がどうにかしてくれるのを待つのではなく、自分で動かせる課題を探す。その方が心も豊かだし、実りもある。そして何より、自分が満たされる。
かつて聖域だと思っていた観客を入れるライブも、最近になってようやく日常の地続きに遠くかすんで見えるようになってきた。
状況はころころ変わるし、油断もできない。
でもその時はまた、自分の気持ちもころころ変えていけばいい。
「今できることを…」という言葉を胸に。
この作品は、「音楽文」の2020年12月・月間賞で入賞した滋賀県・しぐりゅいさん(33歳)による作品です。
自粛からの自立 - ゴールデンボンバー・鬼龍院さんに学んだ話
2020.12.12 18:00