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    藤原基央が歌うアイラブユーの意味 - 革命的かと思いきや、いつも通りのBUMP OF CHICKEN

    ポップでキャッチーでフレッシュで、なんだかアイドルっぽさすら感じさせるメロディや、
    藤原基央にしては珍しい「ベイビーアイラブユーだぜ」という歌詞。
    とにかくドキドキする、ワクワクする、
    ありきたりだがそんな言葉以上に的確に感想を表せるものはないかもしれない。
    昨年12月にロッテのCMとコラボレーションした『新世界』のことだ。

    CMを彩った華やかでカラフルなアニメーション映像ともぴったりマッチしていたし、
    幅広い世代におなじみのチョコレート菓子のCMソングということもあって、BUMP史上最も楽しく軽快な楽曲だと思う。
    さらには、紙鉄砲や靴の音もサンプリングされており、音作りにいたるまで非常に遊び心たっぷりだ。
    一度聴いたら忘れられない、ずっとやみつきになってしまうような…
    まるでチョコレートを買った時のようなときめき感と、チョコレートの味のような甘くてやさしい魅力をもった歌である。
    この歌が話題になった理由のひとつに、藤原基央が
    「ベイビーアイラブユーだぜ」
    と歌ったことがあげられる。
    雑誌等を読むと
    「別にいつもと同じことを言っているんだよ、今回はそういう言葉が生まれただけだ」
    というようなことを言っていたが、リスナーからすればアイラブユーの言葉のインパクトは非常に大きかった。
    私もタイトルは「ベイビーアイラブユー」じゃないのは何でだろう、なんて思っていたが、その理由は後述する。

    さて、とにかくこの歌の第一印象はポップで明るい。

    スネアドラムの軽快なテンポが心地よい冒頭のAメロ部分は、
    「頭良くないけれど 天才なのかもしれないよ
    世界がなんでこんなにも 美しいのか分かったから
    例えば 曲がり角 その先に君がいたら
    そう思うだけでもう プレゼント開ける前の気分」
    と、きたもんだ。
    君がいるだけでとにかく最高に幸せで世界が美しい、というやや暴走気味ともいえる幸福感がたっぷりとつまっている。
    聴いてるだけでにやにやしてしまうような、アイラブユーの気持ちが炸裂したようなはじまり方だ。

    しかしながら。
    やはり、相変わらずといったらいいのか、根底は変わらない安心感があったといったらいいのか。
    ただ明るいだけではなく、その歌詞に触れれば思いっきり[藤原基央らしさ]も含まれていたのだった。
    例えば、こうだ。
    「泣いていても怒っていても 一番近くにいたいよ
    なんだよそんな汚れくらい 丸ごと抱きしめるよ」

    そう、けっして美しいものだけを、キラキラした君の笑顔だけを見ていたわけではなかった。
    よくある軽快なラブソングや冒頭で述べたようなアイドルっぽさを考慮するなら
    “笑っている時、幸せな時、一番近くにいたいよ”
    “そしてそんな綺麗な君を丸ごと抱きしめるよ”
    となってしまいそうだし、そのほうが突き抜けた幸せ感を出せる気がするのだが。
    藤原基央は、決して光ばかりを見て愛したりはしない。

    泣いたり怒ったりする君のそばにいたい、君のコンプレックスや悩みや痛みごと受け入れると言ってくれる。
    闇にだって自ら優しく触れて、全部丸ごと受け入れるのだ。

    でもきっと、多分。

    アイラブユーってそういうことだよなぁ、と思う。
    同じくaurora arcに収録されている『Spica』では
    「汚れても 醜く見えても 卑怯でも 強く抱きしめるよ」
    と同様のことを歌っているし、
    もっと古くは『アルエ』では
    「うれしい時に笑えたら悲しい時に泣けたら
    そんな寒いトコ今スグ出て こっちにおいで」
    と歌っている。
    ─光の下にいる人ではなく、闇の中にいる人の心に触れてそれを認める─
    という考え方は、昔から藤原基央の根底にある普遍的な要素なのだと思う。
    そして、そんな「君」と同様に「僕」だって
    「ハズレくじばかり」
    「もう一度眠ったら 起きられないかも」
    「もう一度起きたら 君がいないかも」
    と内心を語っている。
    「頭良くないけれど 天才なのかもしれないよ」
    と冒頭ではバカっぽいことを陽気に歌っていたが、僕だってそんなに根っからの陽気なキャラクターではない。

    むしろ、何度も繰り返される
    「僕の今日までが意味を貰ったよ」
    という言葉を聞くと、生きる意味を君のおかげで貰えたんだ(それまでは生きる意味がわからなかった)とも読み取れる。
    「君」も「僕」も決して幸せばかりで愛と希望に満ち溢れた人物像ではない。
    だからこそ、「君」や「僕」と同じであるリスナーにとって、藤原基央の唄は信用できるのだと思う。
    そして、そんな生きる意味がわからなかった「僕」だったけれども

    「君と会った時 僕の今日までが意味を貰ったよ」
    「昨日が愛しくなったのは そこにいたからなんだよ」
    と歌われているとおり、君と出会ったことによって自分の【過去】を肯定できた。

    「例えば 曲がり角 その先に君がいたら そう思うだけでもう プレゼント開ける前の気分」
    「明日がまた訪れるのは 君と生きるためなんだよ」
    と歌われているとおり、君と出会ったことによって自分の【未来】を楽しみにできるようになった。

    「君」という存在に出会ったことひとつで、
    【過去】も【未来】も、そんな過去や未来を思い描き君を想う【現在】も─
    世界が丸ごと全て変わって新しくなった、新世界なのだ。
    そういうわけで、
    冒頭で述べた「なぜタイトルがベイビーアイラブユー」じゃないのか、という疑問については、
    この歌のテーマが「君のことが好きなんだ!」ではなく「君と出会って世界が変わったんだ!」だったからだと考える。

    新世界。
    どちらかといえばドヴォルザークの新世界を連想するタイトルだなぁと未だに思っているが、
    一度も歌詞に出てこないこの言葉を敢えて表題にしたことは、きっと大きな意味のあることであろう。
    さて、この歌は、聴く人によって「君」の存在は誰でもいい。
    「家族でもきょうだいでもペットでもいい、
    それぞれの「君」に当てはめてくれたらなぁと思います」
    というようなことを藤原基央さんは言っていた。

    私にとっての「君」は、申し訳ないことにBUMP OF CHICKENだったが、
    あなたが思い描いた「君」はいったい誰だっただろうか─。


    この作品は、「音楽文」の2019年8月月間賞・入賞を受賞した千葉県・chonoさん(29歳)による作品です。


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