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    僕らの町に、今年も雪が降る - ユニコーン「雪が降る町」のあたたかさにふれて

    ふと気づいたら、世の中はもう12月になっていた。

    商業施設に入れば延々とクリスマスソングが流れているし、テレビも大型特番が増え、その途中で流れるCMも、よくみたらクリスマス仕様のものに変わっていた。
    まだ少し早い気もしていたが、世間はもうすっかり年末ムードに包まれている。

    年末が近づくと、私はいつも聴きたくなる曲がある。
    ユニコーンの「雪が降る町」のことだ。



    「雪が降る町」は、クリスマスソングではない。〈年末ソング〉である。
    これは「年末ソングにしたほうが大晦日まで流せる」と考えた奥田民生氏の案らしい。なんともゆるいしたたかさ。

    【だからキライだよ こんな日に出かけるの】

    いかにも「年末のウキウキ感」を漂わせるイントロを抜けて始まるAメロが、こんな脱力的な歌詞からスタートするのも、彼だからこそ許されているように感じる。



    「雪が降る町」がリリースされた1992年、私はまだ生まれていなかった。
    そんな私がこの曲を初めて聴いたのは2009年、中学生だった頃。
    同年にリリースされた、再始動直後の彼らのアルバム『シャンブル』をたまたま車で流していると、珍しく父が「ユニコーン、再結成したん!?」と、驚いた様子で話しかけてきた。

    父はバンドブーム時代のユニコーンを、リアルタイムでよく聴いていたらしい。
    吉田拓郎、さだまさしなどのフォークソングしか聴かないと思っていた父に、自分が聴いている音楽に食いつかれるとは予想もしていなかった。

    そのときの私はチャートの最新曲よりも、自分が生まれた頃、90年代の音楽ばかりを聴いていた。だから周りの友達と音楽の話をしても合わないし、そもそもすることがなかった。
    私にとってそのとき、音楽は「ひとりで、ひっそりと楽しむもの」。
    そんな具合だったので、このとき父と音楽の話ができたのが、何だかとても嬉しかった。
    父が聴いていた頃のユニコーンの曲も聴いてみたいと思うようになった。


    タイミングよく、彼らもファンベスト『I LOVE UNICORN ~FAN BEST~』をリリースしてくれた。早速手に入れ、順に聴いていく。「ヒゲとボイン」「大迷惑」「すばらしい日々」くらいはテレビで聴いたことがあったけれど、それ以外は未聴だった。

    アルバムで手に入れても、結局は元から知っている数曲しか聴かないことが正直よくある。でもユニコーンは、このベストアルバムは、知らない曲でも聴いていてとても楽しかった。
    感想を話せる相手がいると思うと、もっと楽しかった。

    そんななかでも特に耳に残ったのが、「雪が降る町」のメロディだった。

    どんな曲でも、何度も聴いていると歌詞を覚えてくるものだと思う。BPMがゆっくりなのもあって、この「雪が降る町」もすぐに歌詞を覚えてしまった。
    そして歌詞を理解できたとき、もっとこの曲が好きになった。



    偏見かもしれないが、一般的な〈クリスマスソング〉というと、夜景にきらめく都会のイルミネーションのような、いかにもドラマチックなものが多い印象がある。そこで歌われる内容も、まるでその輝きを彩るためのような〈男女の(甘酸っぱくキラキラした)恋愛模様〉を描くものが多い、と思っている。
    もちろん、そのなかでも好きな曲はたくさんある。でも、片田舎で特に変化のない日々を過ごしてきた私には、そのなかで描かれている風景のことを、どうしても自分の生活に重ね合わせて聴くことはできなかった。

    「雪が降る町」は違う。
    この曲で描かれているのは”僕ら”の”見慣れた町”のこと。
    日常の暮らしの延長上にある、年末というささやかなイベントのことだ。

    【いつもと同じ 白い雪さ つもるつもる】

    なにかと美化されやすい”雪が降る”こと、さらには積もっていくことを「いつもと同じ」と、なにも特別視していない。
    ちょっと特別なのは帰省の予定があることと、人の出がいつもより増えて、次第に減っていくこと。あと「じゃま者なしで」「少し」話をして、のんびり過ごしたいと思える相手に、年末だからと理由をつけて、その気持ちを伝えられること。

    ちょっと冷めているように見えて、とても庶民的で不器用で、あたたかい視点。

    ポケットに入れたカイロのようなそのあたたかさに、聴くだけで何だか心がぽかぽかしてくるような気持ちになった。
    それだけではない。同じ状況を過ごしたことはないのに、不思議とこの空気感が自分のことのように想像できた。描かれている”僕らの町”の風景が、片田舎の私の”見慣れた町”にもダブって目に浮かんだのだ。
    あの瞬間、「雪が降る町」は私の年末の定番曲になった。



    年末は、今のこんな世の中にも変わらず訪れる。

    用もないのに歩く人の数も、今年はやたらとまでは多くなさそうだ。今年こそ田舎に帰ろうとしていたのに、残念ながら諦めてしまった人も少なくないだろう。

    これを書いている私自身も、こんな環境のなかで、ちょうど人生の岐路にいる。
    人生はびっくりするくらい思ったようにいかない。そんななかでも少しでも理想に近づこうともがいてみるが、あんまり先に進めている感覚はなくて、先の見えない不安がいつもある。
    時間だけはたくさんあるので、音楽を聴いたりなんてしながら、今この文章を書いている。

    最近一気に冷え込んできて、何気なく見た天気予報に雪のマークを見かけた。ふとこの曲のことを思い出して、この冬はじめての「雪が降る町」を聴いた。

    年末しか聴かないと、こんなに長年聴いていても歌詞がうろ覚えになってしまう。

    【世の中は 色々あるから どうか元気で お気をつけて】

    だからキライだよ、なんて文句から始まるこの曲は、こんなフレーズで締めくくられる。すっかり忘れてしまっていた。
    だからかもしれない、この部分がまるで今の自分に向けて歌われているように聴こえてきた。

    こんなゆるい、楽しい曲を聴いて涙が出るなんて、少しも思っていなかった。
    そしてちょっとだけ、父とまた少し音楽の話をしたくなった。



    ほんとうに、世の中は色々ありすぎる。
    目にも見えない小さなウイルスで、一瞬のうちに世界中の生活が一変してしまったくらいに。
    そんななかでも、どうか元気で、お気をつけて。
    いつも、とは言い切れない今年の町にも、ユニコーンのゆるいあたたかさが、いつもと変わらずつもっていくような気がした。


    この作品は、「音楽文」の2021年1月・月間賞で入賞した滋賀県・星村 まみさん(24歳)による作品です。


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