バンド史上最大キャパの幕張メッセでのワンマンを12月に控えたハルカミライ。9月24日はそのハルカミライの甲府KAZOO HALLでのワンマンライブだった。幕張メッセと同じ、360°センターステージでのライブ。とは言ってもこの日はステージは無く、フロアライブでいつも彼ら4人が立つステージは客席になっていた。開場するまで、どこにメンバーが居るのかどこにお客さんが入るのか、フロアライブに行くのが初めてだった私は開場前からずっとどきどきしていた。
いざフロアに入ると、まさにフロアのど真ん中に機材とドラムセット。マイクが4本。ハルカミライを初めて観たのは1年と少し前のこと、それからの間でかれこれハルカミライのライブを観るのは20回目くらいになるだろうか。正直最近はライブハウスに行くのが日常になってきていて、1回1回の感動が薄れないといえば嘘になる。でも昨日は違った。開演までの30分間、緊張と高揚感と待ち遠しさと終わって欲しくないという寂しさが全部ごちゃごちゃになって、ずっとどきどきしていた。
19時5分頃、照明が落ちてSEが流れた。ワンマンでしか聴けないあのSEでさらに高揚感は増し、今日は絶対に特別な日になると確信した。楽器隊の3人に続き、学さんがフロアに降りてくる。目の前に4人が居る。今まで何度か最前列でハルカミライのライブを観ているが柵もないステージもない最前列は初めてで、同じ高さほんの数メートル先に居る4人を見て少し泣いてしまった。いつものように、「君にしか」で始まるライブ。拳があがる。360°メンバーを囲むお客さんが全員、笑っている。メンバーの表情はもちろん、普通のライブではお客さんの顔があんなにはっきりと見えることはなかなか無い。あの場所には知らない人も、友達も、SNSだけで繋がっている顔見知りも、色んな人が居たけれど、ひとつだけ確かなことはここに居る全員がハルカミライを好きだということ。それだからワンマンライブは最高だ。「今日は幕張でのワンマンの公開予行練習です!」と学さん。序盤はいつも通りのセットリスト。「春のテーマ」は”ここが世界の真ん中!”センターステージに相応しすぎる歌だ。
3つ目のセクション、”八王子駅4番線、そっから君の街へ”ーー大地さんのギターの音に学さんが語るように歌う。「前に甲府で、俺と俊が喧嘩して、俺そんとき初めて俊のこと殴ったんだよ」学さんはこんなにもたくさんの人がハルカミライを知る前の話をしてくれた。「甲府ではいつも、色んなことが起こるんだ!ずっと前からお世話になってるライブハウスです。KAZOO HALL、18周年おめでとうございます」それから歌ってくれたのは、「星世界航行曲」。ハルカミライのはじまりのときから、2人は色んなことを乗り越えてきたんだなと想像した。涙が止まらなかった。「ウルトラマリン」、「Mayday」、「ラブソング」とミディアムテンポの曲が続く。涙は止まらない。”君には全てをあげるよ 愛も憎しみも歓喜も悲哀も だから君の全てをくれよ”ーーこの歌詞を初めて聴いたときの衝撃は今でも忘れられない。色んなバンドが、色んな愛を歌うけれど、ハルカミライの歌の持つ優しさと強さにはいつも心を掴まれる。中指を立てるだけがロックじゃない、優しいから強くあれる。そのことを体現している。
曲が終わり、今度は「今度新曲が出るのは、知ってる?」とおもむろに11月にリリースされる新譜の話を始めた学さん。「俺は明確なものとして、愛とはとか希望とはとか、まだよく分からないんです。昔は先輩の真似してそういうことを分かったように言ってたけど。でも最近は分からなくても、このバンドをやっているうちに分かればいいのかなと思ってて。愛とは何か、希望とは何か、そういうものを探す過程の曲です」「メンバー紹介します。ドラム小松謙太、ギター関大地、ベース須藤俊、ボーカルは俺だ!それと、一緒に歌ってくれるお前たち、俺たちがハルカミライだ」そう言って歌ってくれたのは「PEAK’D YELLOW」。白い照明の中でドラムのリズムだけで4人が向かい合い歌う姿は一生忘れたくないと思う程にかっこよかった。幕張の大きなステージで4人の声が響くのがすごくすごく楽しみになる。ハルカミライの進む先にはいつも、期待しかできない。「さっき俺、明確なことは分からないって言ったけどひとつだけ分かったことがあります!それは友達のこと!この3人は最高の友達だ!この4人でハルカミライ!最高だぜ」と、言い放ち、始まった曲は「QUATTRO YOUTH」。”心配性なあいつとは6年も経った”、”どっか抜けてて優し過ぎるあいつ”、”生意気で2個下のあいつ”、それぞれのメンバーを指差しながら歌うのを見て、ハルカミライを好きになって良かったと心から思った。4人が出会ってくれたそのことに感謝するほどに。
「世界を終わらせて」を歌うときには「端の後ろの方までみんなに届くようにしないとダメだよな今日気づけてよかったわ!」って言って学さんは歌いながらお客さんの中歩き回っていた。誰も置いていかないその姿勢が、またグッときた。「パレード」、「アストロビスタ」を経て本編の最後は「僕らは街を光らせた」。特別な1日を締めくくった。”地獄の果てを 音楽の果てを この歌の果てを 歓声の果てを”ーーハルカミライはどこまで連れて行ってくれるのだろうか。最初から最後まで、ずっとどきどきしていた。
アンコールでは、学さんが新曲「これさえあればいい」を弾き語った。「俺楽器なんか特に弾けないんだけどさ、とか歌ってるけど、実はちょっと弾けるんだよね」と笑う。懐かしいような新しいような、ありそうでなかった、少しダサいのにめちゃくちゃにかっこいい。ハルカミライの歌はわたしの心を、人生を掴んで離さない。歳をとってライブハウスから離れてしまう日が来てしまったとしても今日のことは絶対に忘れたくないと、「ヨーロービル、朝」を聴きながら思った。
人気が出るとチケットは取れなくなる。キャパが大きくなり、小さなライブハウスでは観ることができなくなる。それに伴って色んなことが変わっていく。確かにそれは残念なことかもしれない。「遠くなった」「変わってしまった」と。ただ、ハルカミライをたった1年間ではあるが見てきて思う。ハルカミライの進む先には、なぜか、そんなマイナスな感情を超えるほどの期待をしてしまうのだ。ライブを観るたびにそれが更新されていく。そんなバンドに出会えたのは初めてだ。きっと彼らも言うはずだ、「そんなこと言う暇があるなら、俺らのライブに来いよ」と言うはずだ。8888人キャパ、KAZOO HALLのワンマンよりは確実に遠い距離。それでもわたしは幕張メッセでのワンマンライブが楽しみだ。どこまでも行ってくれ。ハルカミライ。どこまでも遥かに!
この作品は、「音楽文」の2019年10月・月間賞で入賞した東京都・りんさん(22歳)による作品です。
ハルカミライの進む先に - 甲府KAZOO HALLでのフロアライブワンマンを観た
2019.10.14 18:00