ついに日本でも公開。ロビー・ウィリアムズは“猿”になり、ファレル・ウィリアムスが“レゴ”になる伝記映画。昨年のトロント映画祭で語っていたことまとめ。

ついに日本でも公開。ロビー・ウィリアムズは“猿”になり、ファレル・ウィリアムスが“レゴ”になる伝記映画。昨年のトロント映画祭で語っていたことまとめ。 - pic by AKEMI NAKAMURApic by AKEMI NAKAMURA
昨年9月に開催されたトロント国際映画祭で上映された、ロビー・ウィリアムズの伝記映画『BETTER MAN/ベター・マン』と、ファレル・ウィリアムスの伝記映画『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』。日本でもようやく公開されたので、ここで紹介したい。

予告編はこちら。
『BETTER MAN/ベター・マン』

『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』

私はこの2本を、昨年の映画祭で観たのだが、いずれもロビーとファレル本人が観客の前に登場し、特別な上映となった。

ロビーは、映画が終わって登場するや会場から大喝采を浴び、感極まって涙する場面も。一方のファレルは、サプライズでマーチングバンドを登場させるという粋な演出を見せた。

映画そのものも、非常に個性的だ。ロビーの作品は『グレイテスト・ショーマン』のマイケル・グレイシー監督が手がけ、なんとロビーがCGIの“猿”になるという前代未聞の内容。一方、ファレルの映画は、『20 Feet From Stardom』で知られるモーガン・ネビル監督によるもので、全編レゴで作られた異色作だ。ミュージシャンの伝記映画が次から次へと作られている昨今、両作品とも一際異彩を放つ存在と言える。

以下、映画祭期間中に本人たちが語っていたことをまとめる。

『BETTER MAN/ベター・マン』

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●監督:ロビー・ウィリアムズを猿にした理由。
「ロブと話している時に、彼が何度も『ステージに引っ張り出されて猿みたいにパフォーマンスさせられてた』とか、『後ろのほうで猿みたいにやってた』って言うんだ。とにかく『猿』って言葉を繰り返すから、きっと彼は“パフォーマンスする猿”に、自分自身を重ねていると思った。

それで思い切って本人に、『自分を動物に例えるとしたら何?』と聞いてみたんだ。そしたら、『ライオン』って(笑)。『ほんとに?』って聞き返したら、すぐに『でも実際は猿っぽい』と正直に答えてくれた。

この映画では、語り手は彼自身だ。だから彼が見た“自分像”――つまり“猿”として描いたら面白いんじゃないかと思った。彼もこのコンセプトを受け入れてくれて、結果すごく特別な作品になった」

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●ロビー・ウィリアムズ:最初の挨拶
「この映画は、自分自身と人生を描いた伝記映画だ。つまり、ものすごくナルシスティックで、最高のご褒美みたいなもんだよ(笑)」

●映画を作ることで苦痛を再体験しなくてはいけなかったことについて。
「まさに今、それを体験しているところだよ(笑)。今本当に胸がいっぱいで、うまく言葉にできないんだ。これで、映画を観るのはもう4回目だけど、毎回違う体験になる……(ここで泣き始める)……泣き出すと、止まらなくなっちゃうんだよね……(再び涙)。でも大丈夫だよ。この胸がいっぱいの感じを楽しんでいるから……ただ言葉にならないんだ」

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「そう、痛み。痛みは本当にたくさんあった。映画を観るたびに、毎回違う体験になるんだ。今回は観客のみんなと一緒だったから、また全然違ったし。

それに、ものすごく強く感じたのは、自分は“受け入れられたいんだ”っていう圧倒的な気持ち……ああまた泣きそうだよ(笑)。要するにさ、“名声、名声、名声、名声、俺を有名にしてくれ!”って叫んでいたのは、つまりは“自分を受け入れてもらいたい”、“理解してもらいたい”っていう願いだったんだなあってことなんだと。

さっきみんなが立ち上がって歓声を送ってくれた時、あの瞬間……“愛が受け入れられた”って、確かに手応えがあったんだ。本当にありがとう、みんなに感謝してるよ」

●自分の人生が映画化されることの意味とは?
「それは、これからもっと見えてくるんじゃないかな。まだこのプロセスが始まったばかりだから。

Netflixでドキュメンタリーを公開した時も、ちょっと似たような体験をしたんだ。あのドキュメンタリー、俺は気に入ってたんだ(笑)。『絶対やりたい!』って言ったんだよ。だって、俺はプロの目立ちたがりやだからね。それが俺の仕事だし。今でも野心がある。

でも、配信が開始した夜に、25通くらいのメールが届いたんだ。それぞれの人が、あの作品をどう感じたか、どんな風に心を動かされたか書いてくれてて。その瞬間、俺の中であのドキュメンタリーの意味がまったく違うものになった。俺が誰かの心を動かせた、と思えた。観てくれた人たちが、自分と俺を重ねてくれたことが、逆に俺自身の癒しになったんだ。

だからこの映画もきっと、そういう力を持っているんじゃないかと思ってる。俺の外面の、エゴや目立ちたがりの部分じゃなくて、内側にとってどんな意味を持つのか。それが今、自分自身にも問われている気がするんだ。

つまり、今、みんなにこの映画を通して伝えていることが、俺自身にも返ってくる。癒しのプロセスというのかな。だって、涙が出るってことは癒しが起きているってことだと思うから。本当の意味でこの映画が自分にとって何をもたらすのか。それは、これから世界中の観客に観てもらって、もっとはっきりすると思うよ」

『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』

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●ファレル・ウィリアムス:レゴで物語を語る理由。
「子供の頃、両親がレゴを買ってくれたんだ。最初に買ってもらったおもちゃの記憶は、レゴで、Streatch Armstrongってやつだった。俺はいつも空想にふけっているような子供で、学校でもしょっちゅう注意された。でも、おもちゃって、想像力を広げてくれる場所だったんだ。

この映画は子供の頃に夢見ていた“何か”とは違うけど、でも面白いのは、俺が小さい頃から大好きだったレゴから始まって、長男のロケットにも世界中でレゴを買ってあげて、それから3つごの子供たちにもレゴを買ってあげてきたんだ。だから今回、映画を作るチャンスが巡ってきた時に、俺の子供たちにも、小さい子にも、誰にでも届くような形で、自分の物語を語りたいと思った。

レゴで語れば、それは誰にでも普遍的な物語になる。だからこれは、黒人であることや周縁化されたコミュニティに限定された話じゃない。もっと広く、みんなの物語になるんだ。

自分が何者で、本当はどう感じているのかを模索している時、周りの世界が、『お前はこうだ』って枠にはめてくることがある。でも、そこから抜け出そうとしたことがあるなら、それは全ての人たちに共通する経験なんだ。

そして、そういう物語をレゴのキャラクターで語ることができる。レゴにしたことで、人間っていう存在の持つ普遍性を描けるようになったと思ってる」

●レゴへのリクエスト
「レゴにお願いしたことは、全ての肌の色を作って欲しいということ。レゴを作る人たちにも、触れる人たちにも、つながりを感じて欲しかったから。それは性別についても同じ。

それは政治的な意味でやったわけじゃない。人間として、当たり前のこととしてやった。人道的な取り組みとしてね。

肌の色、髪の質ーー例えば、俺の短い髪も、これまではちゃんと表現されてなかったけど、今では実現するかもしれない。レゴは、これまでにはなかった美しい多様性と人間性を、それぞれの人がいるその場所で象徴したいと思ってくれたんだ」

●出演者の選び方
「実は、自分で誰を出すかは決めなかったんだ。映画でどの人生の部分を描くかも俺が決めたわけじゃない。監督のモーガンが、パンデミックの間に多くの人にインタビューしてくれて、物語の語り方も全て彼に任せたんだ。そもそも自分で作っていたら、たぶん、今もみんなここで映画を観ていると思う(笑)。それくらい自信過剰のかたまりな作品になっていたと思う」

●映画から伝えたいメッセージ
「この映画から受け取って欲しいのは、まず第一に社会がどう言おうと、自分が信じる自分でいることの大切さ。

みんなそれぞれ違う人生を歩んできて、いろんな困難を乗り越えてきた。だから違っていて当たり前だし、それがいいんだ。自分の道を信じて、自分の言葉で話し、自分の信念を持って、決して諦めずに進んでいって欲しい。

それから、遅すぎることなんて何もない、ってこと。もちろん、今すぐ始めて欲しい。でも、何歳であっても、どこからでも、あなたは何にだってなれる。俺の言葉を信じて欲しい。だって、バージニア州バージニア・ビーチ出身の黒人少年、俺からの言葉なんだ。今、俺は51歳だけど、気分はまだ赤ちゃんみたいだ(笑)。

できないことなんてない。今はとても分断された時代けど、違いを受け入れて、俺たちはひとつの人間社会の一員だってことを気づいてほしい。違いが君を特別にするんだ。

夢を叶えよう。今すぐ始めよう。この劇場を出たら、その最初の一歩を踏み出そう。ピース・バイ・ピース(ひとつずつ)」

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●監督:レゴで作った理由とその舞台裏
「最初にファレルが持ってきたアイディアは、まずドキュメンタリー映画を作って、それが完成したら、全部捨てて、レゴで作り直そう、っていうものだった。それで、実際それに近いことをやったんだ。

まず、アーカイブ映像を使ってドキュメンタリーを完成させて、それをベースにレゴで作り直した。でもレゴにしたことで、時間も空間も超えて、ファレルの頭の中とか、もっと自由な方法で描けるようになった。結果として、制作には5年間かかったけどね」

●レゴで作る上での苦労
「今回学んだのは、この映画に出てくるものはすべて、実際にレゴで作れるものじゃなくてはいけないということ。例えば、プシャ・Tのブレイズ(髪型)については、細すぎて壊れたら子供が飲み込んでしまう危険がある、とレゴからダメ出しが出た。それで、どれくらいの太さにすれば安全か、レゴのエンジニアに相談して調整したんだ。

それから、ファレルの物語には欠かせないダンス。でもレゴのキャラクターって、手足がうまく曲げられない。どうやってダンスの動きを作るのかはすごく苦労したけど、それを考えるのが楽しかった」

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