今週の一枚 フォール・アウト・ボーイ 『マ ニ ア』
2018.01.21 14:00
フォール・アウト・ボーイ
『マ ニ ア』
1月19日発売
Fall Out Boy - Church
パトリック・スタンプは、『rockin’ on』2月号のインタビューの中で、活動再開後の『セイヴ・ロックンロール – FOBのロックンロール宣言!』(2013)、及び『アメリカン・ビューティー/アメリカン・サイコ』(2015)という2作のアルバムが、想像以上に好意的に受け入れられたことで喜びながらも戸惑った、という意味のことを語っている。そして2017年9月に予定されていた新作『マ ニ ア』は、数曲を抜本的に製作し直したり、新たに楽曲が加えられたりという手続きを要し、この1月にようやくリリースされた。
傍目には順風満帆に見えた今日のFOBが、実は逆に戸惑いと迷いを抱え込んでいたということ。新作『マ ニ ア』を読み解くには、その辺りの事実が鍵となりそうだ。衝動的なロックを奪還することで前2作が素晴らしい成果を挙げたことは間違いないけれども、ただ無邪気にロックすることが2010年代の後半に果たして意味のあることなのか、という疑念が湧き上がっていたのではないか。無論、一心不乱にロックンロールを追求することで確かな手応えを掴むバンドも世の中にはいる。ただ、FOBの場合はそうではないだろう、という話なのだ。
Fall Out Boy - Young And Menace
新作のリード曲として最初にリリースされた“Young And Menace”は、歩んできた道のりを振り返って若かりし頃の無闇なエネルギーを思い返すというナンバーだった。ロックの肉体性がベースミュージックのグルーヴを飲み込む形で、重苦しさの中にも力強く湧き上がる感情が伝わる。そう、FOBはもう若くはない。“Champion”も、どうにか自分自身を奮い立たせようと檄を飛ばすさまが、大人びたエモの在り方を提案している。《子供の頃に憧れたヒーローは、みんな落ちぶれるか、死んでしまった》と歌われる“Stay Flosty Royal Milk Tea”は、残酷な時の流れと栄枯盛衰を詩的に綴り、時間に取り残されまいと、ロック×ハードテクノの推進力で必死に走り続けている。
「大人のロック」とは、果たして使い古されたロックのことなのだろうか。恐らく、FOBが本作で向き合っている課題はそれだ。かつての鮮烈なエモとも、バンド表現を進化させた『インフィニティ・ハイ- 星月夜』や『フォリ・ア・ドゥ – FOB狂想曲』とも、ロック衝動を奪還した前2作とも違っている。経験を積んだ今だからこそ見える景色に働きかけるための、ヘヴィでシリアスなエモさ。本作ではすべての収録曲において、その点が突き詰められている。例えば、FOBと共に大人になったあなたが今、抱えている「エモさ」とはこの音の中にあるのではないか、という渾身の問いかけなのである。
本作では、フィジカル盤とストリーミング版で収録曲順が異なっているのだけれど、どちらのバージョンでも2曲が続けて配置された“Church”から“Heaven’s Gate”の流れが素晴らしい。ディープ・ソウルの切実で厳かなコーラスに包まれる後者は、とりわけ若かりし日のFOBからは想像もつかないような新しいエモさだ。また、日本盤にボーナス収録された“Champion (Remix)”は防弾少年団(BTS)のRMをフィーチャーしており、熱いラップが見事にハマっている(既に昨年末には配信リリースも)。
見事な復活を遂げて余裕綽々の人気バンド=FOBはもはやここにはいない。「大人の今」へと働きかけるロックのエモさを、執拗なまでに探り当てようとしてアルバムを完成させたFOBだ。この4月には本作を携え、初の武道館公演を含むジャパンツアーが繰り広げられる。大人になったFOBによるこのシリアスでモダンなロックが、どんなステージを作り上げてくれるのか、楽しみだ。(小池宏和)