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    今週の一枚 Public Image Limited『ホワット・ザ・ワールド・ニーズ・ナウ…』

    今週の一枚 Public Image Limited『ホワット・ザ・ワールド・ニーズ・ナウ…』

    Public Image Limited
    『ホワット・ザ・ワールド・ニーズ・ナウ…』
    9月2日発売

    セックス・ピストルズのジョニー・ロットンのようにボロックスとFワードを連発し社会の欺瞞を暴く一方で
    60歳を前にした大人の、人生経験を誰よりも積みまくった肝の据わった迫力とユーモアが詰まった、
    笑いながら世界を蹴飛ばすような豪快な作品。。
    PiLとして19 年振りに復活した『ディス・イズ・PIL』から3年、通算10枚目となる本作は、“攻め”のアルバムだ。

    何よりも印象的なのは、ジョン・ライドンがかつてなく自由に歌っていること。本人自らインタヴュー(ロッキング・オン9月1日発売号)で語っているが、バンドのメンバー同士(前作同様ルー・エドモンズ、スコット・ファース、ブルース・スミス)の絆が35年やってきた中でも最も深まっていて、
    それによって様々なヴォーカル・スタイルを試すことができたのだという。

    あらゆる音楽や価値観を解体し続けたPiLは、
    前作『ディス・イズ・PIL』で、「これがPiL、俺達はPiL」とか、「俺はジョン イギリス生まれ 俺はハゲタカじゃない これが俺の文化」と自らの出自をアジテーションのように叫び、ひとつの答えに辿り着いた。
    PiLの版権を自らの手に取り戻し、それを管理する音楽出版社PiL Twin Limitedやレーベルも設立。
    自由に音楽活動できる状況から、この2作は生まれた。
    そこで本来のジョン・ライドンらしさが爆発したのが、このニュー・アルバムだ。

    ジャケットも自らが描き、「このジョーカーはスティール・トゥのドクターマーチンを履いてるよ」と語りながら、ジョーカーが自分自身であることを、あるいは俺の靴を盗んだということを、なぞかけしている。
    『ホワット・ザ・ワールド・ニーズ・ナウ…』というタイトルも、
    1984年の『This Is What You Want... This Is What You Get』を思わせるが、答えを差し出すのではなく開かれた問いを世界に放っている。

    MVが先行公開された“ダブル・トラブル”は、トラブルだらけだった自分の人生に対して、
    「もっと来いトラブル、俺が乗り越えてやるぜ」と挑発し、
    2曲目“ベティ・ペイジ”では性をエンターティンメントとして解放したモデル、ベティ・ペイジをアメリカの欺瞞への問いかけとして歌い、
    T-レックス風のブギー“ザ・ワン”ではティーンエイジャーへのメッセージを放つ。
    “ビッグ・ブルー・スカイ”での気持ちよさそうな伸びやかなが歌やキラキラしたギターも異色で印象的だが、実は戦いの一風景が描かれていたりもする。
    “コーポレイト”では国際紛争から音楽業界まで人のものを盗もうとする輩を告発。
    父の死をFワードだらけの歌で追悼する“シューム”も彼らしくて驚いた。

    また、日本のみのボーナス・トラックとして
    セックス・ピストルズ時代のヴィヴィアン・ウエストウッドとのいざこざを揶揄した“ターキー・ティッツ”も収録されている。

    ジョン・ライドンとジョニー・ロットンが出会ったような感慨深い本作。
    60歳を前に、社会のおどけた告発者であるジョーカーとしての役割を引き受けた彼は今、絶好調だ。

    ちなみにPiLの過去の全作品が、本作と同時に最新のハイクオリティ音源(3種)でリリースされる。ロック・シーンに衝撃を与え続けたPiLの歴史を、この機会にぜひ体験してほしいと思う。
    最新PiLがかつてなく元気な今だからこそ。
    (井上貴子)
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