今週の一枚 ジ・インターネット『ハイヴ・マインド』
2018.07.20 21:25
ジ・インターネット
『ハイヴ・マインド』
7月20日(金)発売
フランク・オーシャンやタイラー・ザ・クリエイターを輩出したLAのヒップホップ・コレクティブ=オッド・フューチャー。いまはあまり聞かないワードになってしまったが、10年ほど前、彼らをいわゆる「クラウド・ラップ」にカウントする意見は少なくなかった。オッド・フューチャーに関連するプロジェクトがすべてクラウド・ラップとは思わないが、唯一の女性メンバーであったシド・ザ・キッドが所属するジ・インターネットには少なからずその要素があり、そして、いまから振り返るとそれは当時思っていた以上に重要なことではないだろうか。普通ヒップホップのサンプリング・ソースとなりづらかったニュー・エイジやアンビエントが取り入れられることで、ラップ・ミュージックに、引いてはR&Bやソウルにまでチルでディープなムードが拡大していった。その成果がフランク・オーシャンやソランジュ、そしてシドの昨年のソロ作『フィン』といったエッジーな「オルタナティブR&B」であることは間違いない。実験とポップの限界を拡張する現在のR&Bの活況を思うとき、クラウド・ラップの時代を回顧することも悪くはないだろう。
とはいえ、ジ・インターネットとしては4枚目となる本作は、初期とは比べものにならないほど洗練されている。シド以外にもメンバーのマット・マーシャンズやスティーヴ・レイシーも昨年ソロ作を発表しているが、その経験がバンドとしてのアイデンティティを固めることになったのだろう。多くのゲストが参加した前作『エゴ・デス』とは対照的に、バンドの親密なアンサンブルにフォーカスを当てた一枚である。
ファンキーで涼しげなファンク・チューン“ロール(バーバンク・ファンク)”や“ラ・ディ・ダ”など思いのほかグルーヴ主体の楽曲もあるが、あくまで中心にあるのはスムースでメロウなR&B/ソウル。そこにクラウド・ラップ以降のくぐもった音響が加わることで、濃密な官能がじわじわと広がっていく。シドやスティーヴの歌い上げすぎない物憂げなボーカルもじつに艶やかで甘美。そうしたディープなムードは“ステイ・ザ・ナイト“や“ネクスト・タイム/ハンブル・パイ”のようなメランコリックなバラッドで最高の媚薬となって効いてくる。
『ハイヴ・マインド』は現代R&Bの深い音響へと潜りながら、同性愛も含めた(シドはバイ・セクシャルを公言している)エロスをリスナーとの秘めごとのように差し出していく。ブラック・ミュージックの伝統を受け継ぎながらも、それを新しい時代の肌触りに仕上げているのだ。(木津毅)