今週の一枚 ジーザス・アンド・メリー・チェイン『ダメージ・アンド・ジョイ』

今週の一枚 ジーザス・アンド・メリー・チェイン『ダメージ・アンド・ジョイ』

ジーザス・アンド・メリー・チェイン
『ダメージ・アンド・ジョイ』
3月24日(水)発売

ジーザス・アンド・メリーチェインにとって、実に19年ぶりのニュー・アルバムとなるのがこの『ダメージ・アンド・ジョイ』だ。本作は前作『マンキ』から19年ぶりということよりも、2007年の再結成から10年もかかったということのほうが意味があるんじゃないかと思う。ちなみに彼らはこの10年間、何をやっていたかと言えば、ベスト盤やボックス・セットを出したり、アラン・マッギーと旧交を温めて新生Creation Managementと契約したり、『サイコキャンディ』の30周年記念再現ツアーを行ったりと、「過去の清算と修復」と呼ぶべきイベントをいくつもこなしていた。ちなみに本作には再結成直後の2008年、ドラマ「ヒーローズ」のために書かれた“All Things Pass”の再録バージョンも含まれている。

『ダメージ・アンド・ジョイ』は、まさにそんな過去の清算と修復を経てこそようやく作り得たアルバムだ。たとえば先行シングル“Amputation”のギターには一瞬で『ハニーズ・デッド』の“Reverence”がフラッシュバックするし、ベルナデット・デニングがゲスト参加した“Always Sad”を聴いて、ホープ・サンドヴァルとジム・リードの珠玉のデュエット“Sometimes Always”を連想しないファンはいないだろう。曲中盤の展開は、彼ら自身が敢えて“Sometimes〜”のリプライズを匂わせているとすら思える。『サイコキャンディ』収録の“Just Like 《Honey》”が数年後に『《Honeys》 Dead』と、アルバム・タイトルにリンクしていったように、ここでも《Always》がリレーされているのにも注目だ。

他にもアフター・パンクの熱を引きずった轟音カタルシス作『サイコキャンディ』や、エルヴィスからビーチ・ボーイズ、ビートルズへの甘い夢を引きずった中期のポップなロックンロール・チューンを彷彿させるナンバーが点在している。前述の“Amputation”、“Always Sad”を筆頭に、シューゲイザーの元祖として、マッドチェスターへの回答の意味も込めた傑作『ハニーズ・デッド』や、サザン・ロックやアコースティックの枯れた味わいが際立つ後期の秀作『ストーンド・アンド・ディスローンド』との相似形ももちろんだ。スカイ・フェレイラがボーカルで参加した“Black And Blues”などは、『ダークランズ』あたりから『ストーンド・アンド・ディスローンド』までを見事にブリッジした曲と言えるんじゃないだろうか。

リード兄弟の仲が最悪な状態で作られた前作『マンキ』が、とっちらかった分裂症気味のアルバムだったのに対し、本作のバラエティは兄弟の統一見解として導き出されたジザメリの集大成、ということなのだと思う。ちなみに集大成とは言っても、「これがジーザス・アンド・メリーチェインのサウンドです」と整理して示すのではなく、あくまでグデグデと天の邪鬼な足取りで整理する気はない、そんな彼らの持ち味(?)が健在なのも個人的には嬉しい。ジザメリのようなバンドが2017年の「最新の自分たち」であることに縛られるのではなく、こうして「あるべき自分たち」にフォーカスしたのは正しいと思うし、彼らのような再結成アルバムは、年代、年齢と無関係にクラシックとモダンに等しくリーチできるストリーミング時代の再結成、再始動のかたちとして今後定着していくのかもしれない。

『マンキ』はジム・リード作の“I Love Rock 'n' Roll”で幕開け、ウィリアム・リード作の“I Hate Rock 'n' Roll”で終わるという、リード兄弟の仲が悪すぎてむしろ阿吽の呼吸を生んでいる状態に笑うしかなかったわけだけれど、今回のタイトル「損害と喜び(Damage and Joy)」もまた、彼らのそんな捩じれたアンビバレンツを象徴するものだ。ジザメリは常に一方的な否定も、一方的な肯定もしようとはしない。否定と肯定、その摩擦の中で生まれるのが彼らのノイズとスウィート・ロックンロールの融合なのだから。ラスト・ナンバーは“Can’t Stop The Rock”。否定形でロックンロールを肯定していく、ジザメリの真骨頂を改めて目の当たりにするエンディングだ。(粉川しの)
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