今週の一枚 ブライアン・イーノ『リフレクション』
2017.01.02 07:00
ブライアン・イーノ
『リフレクション』
1月1日(日)発売
ブライアン・イーノの新作『リフレクション』は、アンビエント・コンセプトによるアルバムだ。
今から40年以上前の1975年、『ディスクリート・ミュージック』に始まったイーノのアンビエント・ミュージックは、一種の革命だった。ここでイーノが提唱した「光や雨や風の音が環境の一部であるように、音楽も周りの環境の一部として聴く」というアンビエント・ミュージック/環境音楽の概念は、その後のポップ・ミュージックのあり方を大きく変えた。スティーヴ・ライヒやテリー・ライリーといった現代音楽の作家たちによるミニマル・ミュージックやエリック・サティの「家具の音楽」の理論を、イーノ流にアレンジし、ポップ・ミュージックの文脈で展開したのが斬新だった。それは一種のイージー・リスニング音楽としても、難解な理論を含んだ実験音楽としても、ある種のヒーリング・ミュージックとしても、音響アートとしても、そして、音楽にまつわる曖昧模糊とした雰囲気や感覚を演出するための手法としても有効だった。つまりメッセージや情報や意味や文脈や強い感情や時代性や、展開や構成やドラマツルギーといった、従来のポップ・ソングの内容や形式から切り離した、なんとはなしの曖昧な気分だったり感覚だったりテクスチャーだったりを表すためのまったく新しい音楽的言語を、イーノのアンビエント・コンセプトは提示したのである。その影響は、現代ポップ・ミュージックのあらゆる場所に発見できる。ディストーションの効いたノイズ・ギターが、ポップ・ミュージックのあらゆる場面で応用されているように。だが本家イーノの作り出す純度の高い、奥行きと幅を持った音響の深さと美しさは、やはり他の凡百とは圧倒的に違うのだ。
「聴き込むこともできるが、無視することもできる」アンビエント・ミュージック/環境音楽という新しい概念。それに基づいたイーノのアルバムは、テープ・ループを使ったアナログ・レコーディングに始まり、コンピュータ-・ソフトを使ったデジタル・レコーディングへとプラットフォームを移してきたが、その本質はまったく変わっていない。
淡々とした電子音がゆったりと明滅しながら、いつまでも連なっていく。その官能的で耽美的な音のテクスチャー。たとえば音源を入れたスマートフォンを無造作にテーブルの上に置き、生活音なのか音楽なのかノイズなのか判然としないまま微かに鳴る音を、聴くともなしに聴くのもいい。あるいは、ハイレゾ・データをハイエンドなオーディオシステムで鳴らし、対峙するように聴いてもいい。またはサラウンド・システムによる立体音響で、包まれるように聴いても面白いだろう。決して聴き方を強制しない。聴き手の想像力次第でいかようにも変わって見せる。どんな聴き方をしても、そのつど違う表情を示す。それがイーノの『リフレクション』なのである。
なお発売中の『ロッキング・オン』2月号では、『リフレクション』についてのさらに詳細な論考を書いているので、ぜひご一読をお勧めする。(小野島大)