今週の一枚 ジョン・メイヤー『The Search for Everything』

今週の一枚 ジョン・メイヤー『The Search for Everything』
ジョン・メイヤー
『The Search for Everything』
4月14日発売

極めてスタイリッシュに纏め上げられたプロダクション。その中でジョン・メイヤーらしいギターワークが光りまくるという、約3年半ぶりのアルバム。軽やかでキャッチーな響きとは裏腹に製作は難航したらしく、1月にガイダンス的な先行4曲を収録したEPを、次いで2月にもう4曲の『The Search for Everything: Wave Two』を順次発表し、今回のフルアルバムに至ったという経緯がある。
(John Mayer - Still Feel Like Your Man)

『〜Wave Two』にも収録された“スティル・フィール・ライク・ユア・マン”は《君のシャンプーをまだ置いてあるんだ/またいつでも来て髪を洗えるようにね》といった歌詞で歌われる、恋の残り香をオシャレなソウル・テイストで描き出したナンバー。失恋ソングの割にビデオもユーモラスで楽しいし、数々の浮名を流してきたジョン・メイヤーを思い返すと少々腹立たしい。しかし、こんなふうに爽やかと言えるところにまで楽曲を洗練させた苦心は、「武士は喰わねど」的なやせ我慢の美なのかと解釈するとグッとさせられたりもするのだ。

無力感に苛まれる苦悩がファンキーなフックと共に弾ける“ヘルプレス”や、夢見心地なギターサウンドに記憶を溶かしてゆく“ラヴ・オン・ザ・ウィークエンド”なども、アメリカーナ/ルーツ・ロック色の強いサウンドに傾倒していた前作から一転して、ジョン・メイヤーの新たなコンテンポラリー・ソングとして結実している。このポップな響きの裏側には、どれだけの執念が渦巻いていたのだろう。

己の中の変化できない部分と、心だけが移ろいゆくさまの狭間でブルージーに心を痛める“チェンジング”や、踏み出される新たな一歩に柔らかなグルーヴを宿した“ムーヴィング・オン・アンド・ゲッティング・オーヴァー”はいずれも『〜Wave one』に収録されていた楽曲だが、この上なく雄弁で美しいギターのアルペジオにモノ言わせるインタールード的な“テーマ・フロム”ザ・サーチ・フォー・エヴリシング””を挟むことで、アルバム作品としての物語を完璧に仕上げている。

一貫して失恋をテーマにした感傷的な作品ではあるけれども、ただ感傷の海に溺れることなく、アーティストとしてのジョン・メイヤーと生活者としてのジョン・メイヤーが足並みを揃えて新しい景色の中に踏み出してゆく姿が感動的だ。もちろんそこには、ギターという表現ツールが必要不可欠であった。ギターの音色に支えられながら、我々はどれだけ新しい景色を観ることが出来るのだろうか。『バトル・スタディーズ』以来となる、スティーヴ・ジョーダン(Dr)、ピノ・パラディーノ(B)というジョン・メイヤー・トリオの面々を軸に据えた作風も熱い。(小池宏和)
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