今週の一枚 ウィーザー『ウィーザー(ホワイト・アルバム)』
2016.03.28 07:00
ウィーザー
『ウィーザー(ホワイト・アルバム)』
2016年4月1日(金)発売
洋邦問わずセルフタイトル作をリリースするアーティストが数多く存在する中で、長年の活動の中で複数の作品に自身の名前を冠していて、しかも日本のハードコアパンク古豪=あぶらだこのように「別称は存在するが実は全アルバムがセルフタイトル」というケースとも異なり「数作に一度の周期でセルフタイトル・アルバムを発表する」ウィーザーのリリース形態は、言うまでもなく世界的に見て極めて稀なものだ。『ウィーザー(別称:ブルー・アルバム)』(1994年)、『ウィーザー(グリーン・アルバム)』(2001年)、『ウィーザー(レッド・アルバム)』(2008年)に続く、4作目のセルフタイトル作『ウィーザー(ホワイト・アルバム)』、いよいよ4月1日に世界同時発売である。
前作『エヴリシング・ウィル・ビー・オールライト・イン・ジ・エンド』から1年半というスパンでリリースされた10作目のアルバムは、前回の『レッド・アルバム』以降、『ラディテュード』(2009年)、『ハーリー』(2010年)、『エヴリシング~』の3作品を経てのセルフタイトル作となる。そして、過去のセルフタイトル作がそうであったように(『グリーン・アルバム』はやや趣が異なるが)、今作にはウィーザーそのものの、目映い陽光にメランコリアとルサンチマンで抗うような破綻寸前のユーモアと、ロックとポップの位相がズレたまま踊り回るようなねじれ感が共存している。ということが、リード曲“California Kids”を聴けば一発で伝わるはずだ。
Weezer “California Kids”
青空と水着の風景に重なるグロッケンの響き、激しくドライヴするギター・サウンド、極彩色に咲き乱れるコーラス……といったサウンドが爽快に鳴り渡る中、冒頭から「君の瞼に蜘蛛の巣」、「死後硬直で動かない」と不穏な言葉を重ねてみせるリヴァース・クオモ。そのミステリアスな躍動感は、ポップを謳歌しながらいつしかポップに追い詰められた結果としてビーチ・ボーイズが作り上げた『ペット・サウンズ』すら彷彿とさせる。とはいえ、今作の「晴れやかな憂鬱」とでも言うべき空気感が病みの産物ではなく、リヴァースという人そのもののウィットと誠意がこんがらがったクリエイティヴィティから生まれたものである――ということを、“California Kids”のタフな音像のみならず、センチメンタル・グランジ的ナンバー“Do You Wanna Get High?”、パワー・ポップ・バラード“King of the World”といった今作の楽曲が雄弁に物語っている。
1st『ブルー・アルバム』も手掛けたリック・オケイセックをプロデューサーに迎えて原点回帰的ロック・アルバムを作り上げた前作『エヴリシング~』から一転、今作でウィーザーがタッグを組んだ相手はジェイク・シンクレア。フォール・アウト・ボーイの劇的進化作『アメリカン・ビューティ/アメリカン・サイコ』、パニック!アット・ザ・ディスコの起死回生作『ある独身男の死』も手掛けた、気鋭の若手プロデューサー&ミュージシャンだ。かつて「Wannabeezer」というカヴァーバンドまでやっていたほどのウィーザーの熱狂的ファンというジェイクの視線が、ウィーザーの「ウィーザー的なる部分」を浮き彫りにするのに一役買ったことは間違いない。これまでのセルフタイトル作とはまったく異なる形で、リヴァースはウィーザーそのものを再定義しようとしたのだろう。その想いと才気が結晶した名盤だ。(高橋智樹)