今週の一枚 エド・シーラン『÷(ディバイド)』
2017.03.03 07:00
エド・シーラン
『÷(ディバイド)』
3月3日(金)発売
世界的に大ヒットを記録した2014年の『X(マルティプライ)』以来3年ぶりとなるエド・シーラン待望の新作にしてサード・アルバム。『X』でエドはファースト・アルバムで果たしたブレイクをアルバム名通りに「増殖」させ、ツアーではウェンブリー・スタジアムで計24万人のファンを前にワンマン公演を実現させるという偉業も成し遂げてみせたわけで、現状で考えられるピークをすべて達成したエドがどのような作品を世に問うのか、ファンでも誰でもその行方を注目してきたはずだ。
こうした流れと期待の中で、エドが引っ提げてきたこの新作『÷(ディバイド)』は、エドという稀代の才能の持ち主の輝きをこれまで以上にみせつけられる作品で、そのあまりある才能にひたすら唸らされてしまった。エドといえば、常に飄々としたあの佇まいが連想されるが、前作『X』とツアーの成功の規模を考えれば、それに続く活動への周囲の期待をプレッシャーとして感じていたとしても当然だと言えるはずなのに、そんなことは一切感じさせず、ふらっと帰って来てこれほどの完成度の高い楽曲が詰まった名作を放り出してきたことに、この才能のすごさは一体なんなのかと感激した。
基本的に楽曲はこれまで通りのエドの世界そのものだ。しかし、その完成度、聴きやすさ、アレンジ、フックなどすべてにおいてエドの最高到達点をみせつける内容になっている。先行シングルとなった“Castle on the Hill”と“Shape of You”などは片方が自分の育った地元への思いや心象をドラマティックに歌い上げる感動的な楽曲になっている一方で、“Shape of You”は交際相手への情熱的な思いのたけを吐露するエレクトロ・ダンス・チューンに仕上がっていて、このまるで違ったスタイルやテーマがまったく違和感なくエドの楽曲として両立できているところが驚異的なところだった。そして、今回の『÷(ディバイド)』は全収録曲についてテーマ、スタイル、パフォーマンス、アレンジと、どの側面についてもまったく違ったアプローチを試みつつ、楽曲や作品としてどれもあまりにも高い完成度を誇るポップ・ミュージックとして仕上げてきているところに圧倒されるばかりなのだ。
たとえば、オープナーとなる“Eraser”ではエドが『X』で初めて披露した本格的なラップを聴かせる曲となっているが、その確かなスキルに裏打ちされたフロウに合わせていくのがあまりにも抒情的なギター・ピッキングで、まずこの組み合わせからして聴いたことのないような代物なのに、これにまた完璧なコーラス・アレンジが加わることでエドの現在を叩きつけてくるような内容になっているのだ。
あるいはラップのヴァースとアイルランドのパイプやヴァイオリン演奏によるコーラスがミックスする“Galway Girl”もかなりの力業だし、息遣いの音をループにしてそこに息をもつかせないスピード・ラッピングを被せ、コーラスでは情熱的に歌い上げる“Barcelona”など、ラップものだけでも相当なヴァリエーションと試みが行われているだけでなく、どれもどこまでも明快で聴きやすい素晴らしい楽曲として仕上がっているのだ。
モチーフ的には遊びなら誘わないでくれと相手の真意を確かめる心境とブルースを絡めていく“Dive”、ゴスペル的なバラードとして相手への愛しい気持ちを歌い上げ、おそらく今後のライブのしっとりタイムの必殺ナンバーとなりそうな“Perfect”、完璧なラヴソングとして仕上がっている“Hearts Don’t Break Around Here”、もろアフリカン・ポップな“bia Be Ye Ye”などあまりにも変幻自在で、かといって、どれも完璧なエドになっているところがすごすぎるのだ。
もちろん直球勝負となっている楽曲もあるし、そうした楽曲は“What Do I Know?”や“Save Myself”など、エドならではのメッセージ性が強く打ち出されたものになっていて、そうした意味でもとても頼もしい内容になっている。まったく非の打ちどころもなく、あまりにも豊かなヴァリエーションを各楽曲で紡ぎ出してみせるエドの今回の新作。聴き終えて素直に、本当に才能とはすごいものだと感動した。そして、この楽曲群をライブではどう披露していくのか、またワンマンでやっていくのだろうかとひたすら思いを馳せてしまうばかりなのだ。(高見展)