今週の一枚 クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ 『ヴィランズ』
2017.08.25 18:45
クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ
『ヴィランズ』
8月25日発売
クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ の4年ぶりの新作『ヴィランズ』。あまりのわかりやすさと豪快さとが同居し、QOTSAの魅力が一気に爆発していく歓喜せざるをえない内容になっている。
誰もがきっと不思議に思ったはずなのは、エイミー・ワインハウスなどを手がけたヒット・プロデューサーのマーク・ロンソンと組んでいるということだ。ヒップホップ/R&B系のプロデューサーであるマークとコラボレーションする意図はどこにあるのだろうか。それはあくまでもマークのこれまでのサウンドの傾向に、音を硬質な塊として捉えていくアプローチが特徴としてあったからにほかならない。
マーク・ロンソンと組んでいることと今回のサウンドの明解さから、今回の新作はダンサブルだという評価もある。しかしむしろ、QOTSAの身上とするリフをどこまで硬質な音として純化させるかというのがこのアルバムの狙いだし、マークと組んだ意図でもある。さらにマークが『アップタウン・ファンク』で徹底的に自身の原点となったファンクを検証し直したというのも一因かもしれない。というのも、このアルバムはQOTSAのリフとその音楽性の原点をまさに見つめ直して鳴らしてみせる作品になっているからだ。
では、なぜ今こういう作品に向かうのか。それは間違いなく2013年の前作『ライク・クロックワーク』の産物と言ってもいい。実際、2002年の『ソングス・フォー・ザ・デフ』以降、めまぐるしくバンドの体勢が変わっていくなかで、リフの醍醐味を聴かせるバンドのサウンドの基軸は一貫させながらも絶え間ない意匠と試みが繰り返されてきた。その究極の進化形が『ライク・クロックワーク』となり、バンドにとって初のアルバム・チャート1位に輝く理由ともなっているのだ。
今回の新作は『ライク・クロックワーク』のツアー後すぐに制作が始まったというが、こうしたあまりにストレートな内容の作品が形になったのは、『ライク・クロックワーク』というピークを経た、ひとつのカタルシスといってもいいものだし、全編にみなぎるこのエネルギーはまさにカタルシスと呼ぶにふさわしいものになっている。
たとえば、オープナーを飾る“Feet Don’t Fail Me”は遠方で鳴るリフがイントロとして延々と続き、1分50秒過ぎにいきなりリフの塊として炸裂する展開となっている。この音の圧倒的な存在感がまるでレッド・ツェッペリンの『フィジカル・グラフィティ』を思わせるものになっているのが驚異的としか言いようがない。また、“The Way You Used to Do”などでは明らかに70年代的なリフでもってダイナミックに駆け抜けてみせ、その一方で“Domesticated Animals”などではどこまでもQOTSA的なリフの積み重ねがさらに大きなグルーヴを生み出すという離れ業を聴かせてみせる。
あるいは“Fortress”のコード進行がひたすら気持ちいい展開に乗せて歌われるメロディの美しさは格別なものがあるし、一気にこの内容でたたみかけていく内容がすごすぎるのだ。ある意味で、これまでのQOTSAの作風と違うところがあるとすると、今回の場合には禁じ手がおそらくなにもないということだ。過去の何かの作品を連想させたり思わせたりする音も、今回は思いっきり臆さずに叩きつけていくアプローチになっていて、おそらくこのバンドの素養がすべて開示された初めての作品だといってもいいのかもしれない。
このアルバムはまず間違いなく、このバンドにとって最も成功する作品になっていくことだと思う。しかし、これはそれが目的化されたアルバムではなく、ここにきてQOTSAがひとつのカタルシスを生むステージに来たこと、そしてマーク・ロンソンというチョイスはまさにそのためのものだったということをこの音があまりにもわかりやすく説明してくれているところが、どこまでも潔くて素晴らしい。(高見展)