今週の一枚 ベル・アンド・セバスチャン『ガールズ・イン・ピースタイム・ウォント・トゥ・ダンス』

今週の一枚 ベル・アンド・セバスチャン『ガールズ・イン・ピースタイム・ウォント・トゥ・ダンス』

ベル・アンド・セバスチャン
『ガールズ・イン・ピースタイム・ウォント・トゥ・ダンス』
1月14日発売


冒頭、"Nobody's Empire"から、ファンならば涙腺決壊必至である。

「僕はベッドにしがみつき、過去にしがみつき/闇の誘惑にしがみついていた/でも夜の向こう側にはくっきりと青信号が見えた/狂乱の前の静けさだよ」

スチュワートが、曲を書き、歌うことになったごく初期を描いている。しかも一人称で書いている。
加えて、ベルセバとしか言いようのないメロディが鳴っている。そして何より素晴らしいのが、デビューからいくつかの転機を経た後、キャリアのおよそ半分をかけてじっくり築き上げられていったバンドのふくよかでピースフルなアンサンブルが、わざとらしさを感じさせずに鳴っていることだ。

近年のベルセバは、特にライブの場ではアマチュアであることを聴き手がよしとするような初期のスリリングさの代わりに、彼らならではのメロディやオーケストラル・ポップの美点を引き出し、その場をめいっぱいの祝祭感で包み込んでいる。それを考えれば、アルバム・リリースに先駆け聴き手を驚かせたような"The Party Line"のようなチャレンジングな曲も、すんなりと聴こえてくる。彼ららしいサプライズ感で、誰よりも早かった宅録インディ・ポップの意地が軽やかに透けて見える。そういうわけで、2月の『Hostess Club Weekender』でのパフォーマンスでどう見せるか、とても気になるところ。

初期からのリスナーがとりわけ鷲掴みにされるのが"Ever Had A Little Faith?”だろう。原型は94年にすでにあったというこの曲は、ルー・リードが逝去した際に、メンバーそれぞれが持っていたヴェルヴェット・アンダーグラウンド観を今一度捉え直して解き放ったナンバーだと言う。『The Velvet Underground』期のVUを思い出させる、インディ・ポップの本質を映し出すような楽曲だ。

アルバム全体を一聴するとニュー・オーダーかABBAか、と言わんばかりのダンス・ビートとユーロ色が前面に出てくるが、もはやそうした要素も楽しめる。それはおそらく、ここ数年、彼らに寄せられた「再評価」が象徴するように、実は潜在的に彼らが時代に敏感だからなのだろう。昔よりもさらに何でもありの時代になった今に、このアルバムは不思議とフィットしている。
羽鳥麻美の「POP郊外散歩」の最新記事
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする