今週の一枚 パラモア『アフター・ラフター』

今週の一枚 パラモア『アフター・ラフター』
パラモア
『アフター・ラフター』
5月24日発売(日本盤)

ニューウェーブ方向に思いっきり振りきったリード・シングル“ハード・タイムス”と2ndシングル“トールド・ユー・ソー”の時点で予兆はあったが、パラモアにとって通算5作目のアルバムとなる今作『アフター・ラフター』は、パラモアという音楽共同体を「パンク/エモの一進化形」に留まることなく「ヘイリー・ウィリアムス(Vo)という稀代のアイコンが持つポップの浮力を、ジャンルの枠組みに囚われず描き出す場所」として再定義したことが窺える一大冒険作だ。

“Told You So”

前作『パラモア』で全米・全英1位&“エイント・イット・ファン”でUSシングルチャートも制したのに加え、同楽曲で自身初のグラミー賞受賞(最優秀ロック・ソング賞)も実現しているパラモア。

そんな好調な活動の一方でしかし、3rdアルバム『ブラン・ニュー・アイズ』の後にはジョシュ・ファロ(G)&ザック・ファロ(Dr)兄弟がバンドを去り、さらに2015年末にはジェレミー・デービス(B)までも脱退。

一時はヘイリー・ウィリアムスとテイラー・ヨーク(G)のふたりだけになってしまったパラモアだが、今年2月にはザックが復帰、ヘイリー/テイラー/ザックの3人での新章がスタート――というのが今作に至るまでの、ドラスティックな変化の連続だった道程である。


曲によってスティールパンの響きだったり軽快なリズムパターンだったり、どこかトロピカルな空気感すら漂うサウンドテクスチャーが全編にちりばめられ、80sテイストを前面に打ち出した楽曲群と真っ向から響き合っている今作。

だが、“ハード・タイムス”の《And I gotta get to rock bottom(どん底まで落ちなきゃ=そこから這い上がらなきゃ)》というフレーズや、“Forgiveness”(許し)、“Fake Happy”、“Grudges”(恨み)、“No Friend”といったシリアスなタイトルが並ぶトラックリストからも、パラモアが、というかヘイリーが、自分自身を取り巻いていた環境から生まれる心の重力から解き放つために、この音を必要としていたことがリアルに窺える。

“Hard Times”

とはいえ。デビュー作『オール・ウィ・ノウ・イズ・フォーリング』(2005年)でも、“オール・ウィ・ノウ”がバンドを一時脱退していたジェレミーに捧げた楽曲だったり、“Pressure”“Emergency”“Conspiracy(陰謀)”といった切迫した言葉の数々に当時のカオティックな心境が滲んでいたり……といった具合に、ヘイリーはいつだってその時々の想いをリリックと歌にまっすぐ託してきた。

その表現の手法は変わっても、彼女のアーティストとしての核心は潔いくらいに一貫している――ということも、今作は確かに物語っている。


アルバム中盤、アコースティックギターの調べとともに「『夢見ることは自由だ』ってみんな言うけど、私はそのために犠牲を厭わない」と“26”で静かに宣誓するヘイリーの豊潤な歌には、すでに確立されたパラモア像に囚われることなく「今」を歌う意志がみなぎっている。

16歳の時に『オール・ウィ・ノウ〜』でデビューを飾ったヘイリーが、12年の年月とバンドの激動の時期を経て獲得した、華麗なる最新型ファイティングポーズと言うべき1枚だ。(高橋智樹)
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