今週の一枚 N.E.R.D 『ノー_ワン・エヴァー・リアリー・ダイズ』
2017.12.08 18:30
N.E.R.D
『ノー_ワン・エヴァー・リアリー・ダイズ』
12月15日発売
7年ぶりのN.E.R.Dの新作はアグレッシヴだがどこまでもポップなビートを打ち出すトラックもあり、またN.E.R.Dならではのグルーヴを打ち出すトラックもあり、N.E.R.Dらしい鋭気に満ちた新作になっている。そして今回は本格的にメッセージを打ち出すことに成功したところが、最も頼もしく響くところだ。
もともとN.E.R.Dはプロデューサー・デュオ、ザ・ネプチューンズのファレル・ウィリアムスとチャド・ヒューゴ、そしてファレルとチャドの古くからのバンド仲間であるシェイ・ヘイリーで、通常のプロデュース作業から離れた活動のために結成されたユニットだ。しかしN.E.R.Dのアルバムやプロジェクトの人気が高まるとその活動自体が目的化したところもないわけではなかった。
しかし、ザ・ネプチューンズも早くからR&Bとヒップホップではトップ・プロデューサーになっていたため、そういうプロデューサーとして当然期待される活動とは明確に一線を引いた活動をN.E.R.Dではしてきていた。そして2010年の『ナッシング』で試みたのは、メッセージ性を音と時代性とともに打ち出すというもので、70年代を意識したサウンドとN.E.R.Dとしてのビートに融合させ、そこにメッセージ性を乗せていた。
しかし、時代性とメッセージ性をより明確な形で打ち出すという意味では、結局、このアルバムではまだ消化しきれていなかった。むしろサントラ曲としてその後、ソロとして制作し、世界中で大ヒットした“Happy”でその試みは本当の意味で開花したといってもよかった。
というわけで、その後のN.E.R.Dのプロジェクトにはファレルもまったく新しい心境で臨めただろうし、新しいアイディアにも自由に取り組めただろう。メッセージ性についてはもうある極意を摑んで自在に散りばめることもできるようになったはずで、まさにこの新作はそういう内容の潑溂とした作品になっている。
冒頭を飾るのは、リード・シングルとなった“Lemon(ft. Rihanna)”はどこまでもミニマリスティックでストイック、それでいて絶妙にポップなビートに乗ってファレルとリアーナのラップが紹介されていく。その中で軽快にトランプ時代の気分とそれに足をすくわれないアティテュードがさらりと盛り込まれているところがこのアルバムのすごいところなのだ。
N.E.R.D & Rihanna - Lemon
続く“Deep Down Body Thurst”はいかにもN.E.R.Dらしいアレンジで幕を開ける曲だが、極上のファレル的メロを誇っていて、それが積み上がっていくとギターで強烈に刻んだアタックをかけていくコーラスに雪崩れ込むというN.E.R.D必殺の展開。まさに今作の充実ぶりをみせつけるようなトラックだ。
その後もN.E.R.D的なビートを聴かせる“Voila(ft. Gucci Mane & Wale)”、2ndシングルでどこまでもラディカルでいてポップなビートを聴かせる“1000(ft. Future)”と、軽快な展開が続く。しかし、おそらくこのアルバム最大の聴きどころとなるのがその後の中盤で、特にケンドリック・ラマーも参加する“Don’t Don’t Do It!(ft. Kendrick Lamar)”だ。
N.E.R.D & Future - 1000
まるで70年代ソウルへのオマージュのように、甘いグルーヴでもって始まる曲だが、本編が始まると途端に強烈なビートで刻まれつつ、それでいてグルーヴは維持される。この強靭さはこの曲には必須のもので、なぜかというと、妻の運転する車中にいた脳損傷の後遺症に苦しむ男性が容疑者と勘違いされ、車中にいたまま私服警官に射殺されるという2016年に起きた実際の事件を題材にしたものだからだ。
タイトルの“Don’t Don’t Do It!”は「撃たないで」と繰り返される妻の言葉で、しかし、コーラスでは「They’re Gonna Do It Anyway(どっちみち撃つつもりだろ)」と繰り返される強烈な警察暴力への批判となっている。終盤ではケンドリックの、いつまでもこうした暴挙がうやむやにされると思ってるなよという凄味に満ちたラップが怒濤の勢いで繰り出されていく。
ここまであけすけなメッセージ・ソングをファレルやN.E.R.Dが手がけたことはなかったし、かといって、気負った曲にもなっていない。ただ自身の怒りさえをも突き放してこの曲と一緒にひとつの表現として形にしてみせたことにこの曲、そしてこのアルバムの大きな達成がある。
続く“ESP”はエネルギーも時間も目一杯に注ぎ込まなければなにかをなすこともできないというメッセージを訴えるもので、才能があるから成功するのではなくて努力を絶やさないから成功するのだということを伝えるメッセージ・ソングになっている。しかし決して押しつけがましくなく、終盤の転調してからブリッジの気持ちよさもたまらないものになっている。
中盤過ぎはまた前半のようなエネルギッシュな展開になるが、サウンドとテーマ性という意味でまったく新しい境地に達したところが素晴らしいし、間違いなくバンドにとっての代表作のひとつとなるアルバムだ。
ユニット名N.E.R.Dの意味についてはかねてから「No_One Ever Really Dies」を意味していると知られてきたが、そのユニット名をそのまま今回タイトルに持ってきたのはまさに、テーマ性とメッセージについて一皮むけたことを体現しているものであるのは間違いない。(高見展)