今週の一枚 ザ・ストライプス『リトル・ヴィクトリーズ』
2015.07.15 07:22
ザ・ストライプス
『リトル・ヴィクトリーズ』
7月15日(水)発売
規格外の才能による、規格外のセカンド・アルバム。ザ・ストライプスの『リトル・ヴィクトリーズ』は簡単に言ってしまうとそういうアルバムだ。
多くのロック・バンドにとって、セカンド・アルバムは鬼門と呼ばれている。何故ならそれは、勢い一発で走りきれたデビュー・アルバムの軽やかさから一転、「選択」と「自覚」を促される最初のタイミングとなるからだ。
自分たちだけの個性や強みは何か、それを用いていかに最良のキャリアを築いていくべきか、目の前に伸びる何本もの道の中から1本の道を選び出し、向こう5年、10年のヴィジョンを見据えた一歩を踏み出す、それがセカンド・アルバムだ。とりわけストライプスのように極端に若くしてデビューしたバンドは、そこに自我の成長期までドッキングして足が竦み、最初の生みの苦しみにブチ当たることも少なくない。
しかし、驚くことに、彼らの自我はこの『リトル・ヴィクトリーズ』に至っても未だに100%自由だし、彼らはいくつもの道、いくつもの可能性を只ひとつも払い落とすことなく、全てを自分たちの力にしてしまっている。
本作の制作にあたって、彼らはこれまでの50Sロックンロールやブルースに加えて、ヒップホップやストーナー・ロックからも新たに大きな影響を受けたという。実際に彼らの新たな発見と学びがアルバムの随所で生き生きと跳ね回っている。新しいアイディアが代わりに別の何かを制限するのではなく、どこまでも可能性の広がりに繋がっているのが凄い。
新たなアイディアの血肉化においては、プロデュースを務めた手練の大人たち(チャーリー・ラッセル、ブラッドリー・スペンス)の貢献も大きいとは思うが、しかし基本は18歳のジョシュ・マクローリーを中心とするストライプス自身の中で起こったビッグバンである。18歳の若さで、いや、18歳の若さだからこそ、こんなにも怖れ無しに手を伸ばして掴めてしまう、改めて、そういう新世代の台頭に感慨を覚えずにはいられない一枚なのだ。
個人的に特に強く推したいのがアルバム中盤のダイナミックなブルース調のナンバー群。ブルースは「本格」とか「本物」といった価値観に重きを置くジャンルのために、若手が取り組むと得てして過剰な畏怖やリスペクトによって途端コンサバに陥りがちだが、ストライプスの場合はクールと言うかニュートラルと言うか、スタイルに阿るのではなく、彼らのやりたいことをやった結果がブルースだっただけ、というふてぶてしさがある。『スナップショット』に比べて格段にスタイルのバラエティを増した本作だが、その根底にあくまでもジョシュたちの主体性、揺るぎない軸があるのだ。
中でも“(I Wanna Be Your) Everyday”はノエル・ギャラガーのメロディがブルースと出会って砂漠のど真ん中で竜巻を起こしたかのようなとんでもない傑作で、この1曲を聴くためだけでも『リトル・ヴィクトリーズ』には手に取る価値があると思う。
ザ・ストライプスがデビューして以来、何度もこの少年たちには驚かされてきたが、本作を聴くと、これからも彼らはそういう特別な存在であり続けるだろうことが確信できるのだ。(粉川しの)