今週の一枚 ザ・チェインスモーカーズ『メモリーズ...ドゥー・ノット・オープン』

今週の一枚 ザ・チェインスモーカーズ『メモリーズ...ドゥー・ノット・オープン』 - ザ・チェインスモーカーズ『メモリーズ...ドゥー・ノット・オープン』4月7日(金)発売ザ・チェインスモーカーズ『メモリーズ...ドゥー・ノット・オープン』4月7日(金)発売

ザ・チェインスモーカーズ
『メモリーズ...ドゥー・ノット・オープン』
4月7日(金)発売

痛い痛い痛い。独善的で、脆弱なくせに強欲で、誰かを傷つけておきながら傷つけてしまう自分にこそ傷つき、後悔にまみれながら癒しの旋律と音色を渇望している。そんな愚かしい人間の姿を映し出す、鏡のようなポップ・ミュージックだけが詰め込まれた作品だ。いよいよのデビュー・アルバムにして、パンドラの箱を解き放ったザ・チェインスモーカーズである。

所謂EDMのDJ/プロデューサー・デュオとして2人のキャリアを歩み始めたアレックスとドリューだが、近年のEP/シングル群がそうであったように、もはや以前ほどにはダンス性を強調することなく、よりメランコリックなエレポップへと作風を変化させている。それこそ、日本盤ボートラに収録されたあの“ドント・レット・ミー・ダウン feat. デイヤ”(全米3位・全英2位)の控えめなベース/トラップ要素さえも、少々過剰に感じられるほどである。

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しかしチェインスモーカーズは今や、歌心を核にした作風によって、巨大なカタルシスを導くグループとなった。自分たちの表現を届けるための大きな器があるならば、それがEDMだろうが、ポップだろうがロックだろうが何でも良いのだ。移ろいやすい流行の型に殉じる必要などない。重要なのは、愚かしい人間の姿を映し出す歌が、どれだけ多くの人々のハートを抉ることができるか、ということなのだから。新しい流行を追い求めずにはいられない人間の業すら、彼らの手の内にあると言って良いだろう。

美麗なコーラスを構築するためのゲスト召喚も相変わらず周到で、とりわけ“ドント・セイ”と“マイ・タイプ”の2曲にヴォーカル参加しているエミリー・ウォーレンは、以前からチェインスモーカーズ作品に携わってきた。ショーン・メンデスにも優れた楽曲の数々を提供している実力派ソングライターだ。また、本編最終ナンバーの“ラスト・デイ・アライヴ”でコラボしている、野郎感たっぷりの若手カントリー/ロック・デュオ=フロリダ・ジョージア・ラインによる熱いハーモニーも見事に嵌っている。

なお、日本盤には前述のとおり“ドント・レット・ミー・ダウン feat. デイヤ”のほか、“クローサー feat. ホールジー”、“ローゼズ feat. ロゼス”といったトップ・ヒットも収められていて濃い。ここから聴き始めるリスナーにも親切なパッケージだ。ポップ・ミュージックに触れるということはどういうことなのか、このアルバムを吟味しながらぜひ確かめてもらいたい。(小池宏和)
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