今週の一枚 ザ・シャーラタンズ『モダン・ネイチャー』
2015.02.09 09:00
ザ・シャーラタンズ
『モダン・ネイチャー』
発売中
ザ・シャーラタンズの5年ぶり通算12枚目の作品であり、オリジナル・メンバーであったドラムのジョン・ブルックスが脳腫瘍により亡くなってから初めてとなるアルバム『モダン・ネイチャー』。普段、それこそバンドの存続を脅かすほどの悲劇に直面すると、どうしても重苦しくてメランコリックな曲を書いてしまうものと思われがちだが、ジョンに捧げられたこの作品は全体的にアップリフティングなヴァイブに覆われているのが、まず新鮮。黄昏のビーチにたたずむメンバーが写るアートワークが示すように、この作品はジョンのレガシーを深く胸に刻みつつ、その悲劇を受け入れて、明日へ対する強い希望と決意を感じさせる。そして、なによりも嬉しいのは、それを自分たちが築き上げた独特なうねりのある、あの力強いグルーヴを土台にやり遂げていること。ここ最近の作品では、アコースティック・サウンドに挑戦してみたり、あからさまにニューウェイヴになったり、意欲的にあらゆるジャンル/サウンドを取り入れていたが、どうしても散漫になりがちだった。しかし、このアルバムでは一旦、自分たちの原点に戻りつつ、そこをルートに、たとえばゴスペル・コーラスやブラスやストリングスを奔放に取り入れているので、サウンド的なフォーカスが定まっている上に、シャーラタンズならではの灰汁の強さがどの曲にも感じられ、非常に聴き応えがある。ジョンが残した穴を別のドラマーで埋めるのではなく、ニュー・オーダーのステーヴン・モリス、ザ・ヴァ―ヴのピート・サリスベリー、ファクトリー・フロアのガブリエル・ガーンジーと、自分たちの先輩、同世代、後輩にあたる3人のドラマーにサポートしてもらっているところも、なんだかこの作品が象る“過去から未来へ”というタイムラインを表現しているようで面白い。
これまで2人のメンバーを亡くし、それでも25年間、一度も解散することなく、それこそマッドチェスターの喧騒からブリットポップのビッグバン、2000年代の混沌を生き抜いたザ・シャーラタンズ。ここ数年でストーン・ローゼズやライドなど、かつての同世代のバンドが再結成しては、世界中のファンに涙で迎えられているが、とてつもない悲劇に見舞われながらもここまでサヴァイヴしたザ・シャーラタンズこそホントの奇跡なのではないだろうか。そんなことを思わせる素晴らしい1枚である。(内田亮)