今週の一枚 マムフォード & サンズ『デルタ』
2018.11.16 16:50
マムフォード & サンズ
『デルタ』
11月16日(金)発売(日本盤は11月21日)
すべてを包み込む進化ブ厚いハーモニー=歌声の力=人間そのものの力、を証明するような“42”で幕を開ける、マムフォード&サンズの、約3年半ぶりとなる4枚目のオリジナル・アルバム。“42”は、終盤にアンサンブルが壮大になると同時に、どこまでも広がっていくようなコーラスも現れる。大きな会場で演奏されたら、オーディエンスのシンガロングによって、最もシンプルな形で音楽の力を感じられる楽曲になるのではないだろうか。想像しただけで胸が高鳴る。その後も、そぎ落とされた構成の中で、細やかなサウンドとエモーショナルな歌声が際立っている“ガイディング・ライト”など、軸にある歌と生楽器の彩りが耳に飛び込んでくる楽曲が続いてゆく。構成に印象的な緩急が付いた―特に、終盤に盛り上がりを見せる楽曲が多く、一曲一曲にドラマ性を感じる。
そして、そのドラマ性は曲単位だけではない。アルバム中盤からは、前作『ワイルダー・マインド』で行ったエレクトロな変革の影響が、今作においても反映されている。その場面転換が、グラデーションを描くようにナチュラルに行われているところが見事だ。また、エレクトロな楽曲も、ハンドクラップが似合うような生々しさをたたえている。そして、歌なし、語りと音のみでドラマティックに作られた“ダークネス・ヴィジブル”をひとつの沸点として、再びアルバムはグラデーションを描くように、歌と生楽器を活かした楽曲に戻っていく。
ラスト・ナンバー“デルタ”には、そんな今の彼らがすべて凝縮されている。彼らが持ち得る振り幅を使って、アルバムならではの価値を感じさせてくれるような一枚。音楽、時代、聴き手、そして何より自分たちに真摯に向き合い続けてきた彼ららしい決定盤だ。(高橋美穂)