今週の一枚 コールドプレイ『ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームズ』

今週の一枚 コールドプレイ『ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームズ』

コールドプレイ
『ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームズ』
12月4日(金)発売


昨年『ゴースト・ストーリーズ』をリリースしてからほぼ間断を置くことなくレコーディングを続けて早くも完成したコールドプレイの新作『ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームズ』。前作のどこか張りつめた内向的なサウンドから、今回は大きく方向を変えてくるだろうということは容易に予想できた。『ゴースト・ストーリーズ』は誰もが抱えている「記憶」という「幽霊」と向き合うアルバムだったとクリス・マーティンも語っていて、おそらくクリスとグウィネス・パルトロウとの別離もこの方向性に影響しているのだろうと思えたし、きっとそれを乗り越えた内容の作品になるのだろうと予想されたからだ。

そして、前作から約1年半経って届いたこの新作は確かに前作とは対照的な明るさと躍動感で爆発する内容となったわけだが、しかし、一番心動かされるのは、実はこの新作が前作とどこまでも地続きなことを強く思わせるところなのだ。つまり、コールドプレイの持ち味ともいってもいい高揚感を誘うサウンドをあえて封じて試みられた前作における数々の実験的なサウンドと、今作のとてつもないスケールとダイナミズムは、決して相反する試みとして作られたものではなく、地続きで論理的な進化として成立したものだと聴いていて納得のいくところがこのアルバムの最大の魅力なのだ。

『ゴースト・ストーリーズ』はコールドプレイが初めて作曲をすべてクリスひとりに委ねるのをやめて制作されたアルバムで、ある意味で作曲段階からすべての手続きが共同作業として行われた初めての作品だった。このアルバムが持つ独特な雰囲気はある意味で、バンドの成り立ちを根本的に変更するという実験を試みていたために生まれたものなのだ。そのことは"Magic"のように、ベース・リフが主題となっているという明らかにそれまでのコールドプレイの楽曲にはなかった特徴からもうかがわれたことだし、それによって楽曲がある種のグルーヴを生み出していたこともとても印象的だった。

今度の新作は端的にいって、前作でつかみかけたバンドとしてのダイナミズムを徹頭徹尾追求したという内容になっていて、前作で聴かせたグルーヴをファースト・シングルとなった"Adventure Of A Lifetime"で完全にファンクと形容してもおかしくないほどまでに追求したところがすごいのだ。しかも、このファンク・ロックに行き着いたことにバンドがまったく物怖じしていないところもとても頼もしい。というのも、場合によっては古臭い音になっているのではないかと不安に駆られてもおかしくないところを、このサウンドを生み出せたことをバンド自身があくまでも祝福しているからで、バンドであることへのこの祝福こそが本作の最大のテーマなのだ。それに音の新しさという意味では、ほかの楽曲でエレクトロ・ポップやR&B、ヒップホップ的なアプローチの導入にも完全に成功しているのでまったく動じる必要がないのだ。

最終的に現在のバンドの持てる力を最大限に集約しているのはタイトル曲の"A Head Full Of Dreams"になるが、いずれにしても、前作から乗り出したバンドとしてのテコ入れをこんな形で早くも成就し、完全に生まれ変わったといえるほどのダイナミズムをたたきつけてきたところがこのアルバムのとんでもないところなのだ。(高見展)
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