日本では6月12日に公開されるマイケル・ジャクソンの伝記映画『Michael/マイケル』が、一足先にアメリカと世界各国で週末公開され、現在大きな話題となっている。
というのも、公開直前に発表された批評家レビューは軒並み酷評。たとえば、228件のレビューを集計した平均は39/100点と低評価だ。
https://www.rottentomatoes.com/m/michael
しかし、公開直後に劇場に足を運んだ観客が評価するシネマスコアではA-を獲得。批評家とは全く異なる結果となっている。
さらに、アメリカおよび世界各国で記録的なヒット。初週の興行収入は、音楽系伝記映画にとどまらず、伝記映画全体としても史上最高を更新した。
観客の内訳は、アメリカでは女性が61%、25歳以上が66%だった。
アメリカ国内の興行成績は9700万ドル。これは、これまで伝記映画の初週記録を持っていたクリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』(8240万ドル)を上回る数字であり、音楽伝記映画としても、『ストレイト・アウタ・コンプトン』(6020万ドル)を超えている。
さらに世界興収は2億1740万ドル。これも、『オッペンハイマー』(1億7,420万ドル)を上回り、音楽伝記映画としては、『ボヘミアン・ラプソディ』(1億4100万ドル)を超える記録となった。
では、なぜ批評家はなぜここまで酷評しているのか。
最大の理由は、児童性的虐待疑惑が描かれていない点にある。全体として「美化されている」「内容が薄い」という指摘が目立つ。
いくつかのレビューを抜粋するとーー
⚫︎ニューヨーカー
「『〜マイケル』は、その人物像を美化しすぎた結果、薄っぺらく、視野も狭く、不完全な作品になっている。芸術的意識への洞察も乏しい」
⚫︎ニューヨークタイムズ
「マイケル・ジャクソンの遺産管理団体が制作したこの映画は、彼の評判を浄化するために、人物像を平板なものにしている。眠りながらでも筋書きをなぞれるほどお決まりのありきたりなミュージシャン伝記映画だ」
⚫︎エンパイアマガジン
「マイケル・ジャクソンを演じる2人の若き俳優による音楽とダンスのパフォーマンスは圧巻だが、この作品ではポップスターの物語に存在する“もうひとつの側面”が完全に欠落しているという不穏な事実を、拭い去ることはできない」
⚫︎ピッチフォーク
「バッド、バッド、マジで本当にバッド」
ーーと、挙げればきりがない。
ただし、この問題は単純に「美化」や「浄化」の意図だけではない。
バラエティによると、当初の脚本には児童性的虐待疑惑は明確に描かれており、実際に撮影も行われていた。しかし、撮影終了後に、マイケルの遺産管理団体の弁護士たちが、告発者ジョーダン・チャンドラーとの和解契約に「映画での描写、言及を禁じる条項」が含まれていることを発見。
その結果、脚本の少なくとも3分の1は書き直され、再撮へ。追加費用約1500万ドルも、遺産管理団体が負担することになった。
当初の構成では、物語は1993年、パトカーのライトが点滅する中で鏡を見るジャクソンの姿から始まり、第3幕の大半がスキャンダルを扱う内容だった。いかにこの訴えが彼のキャリアに影響を及ぼしたのか。そして観客に判断を委ねる形で終わるはずだったという。
しかしこの要素はすべて削除され、完成版は1987〜89年『Bad』ツアー、つまり絶頂期で幕を閉じる構成に変更された。
▪️なぜヒットしているのか
結果としてこの映画は、ジャクソン5時代から、『Bad』まで、ヒット曲と象徴的なパフォーマンスを存分に体験できる“グレイテスト・ヒッツ映画”となったからだと思う。
物語の“闇”は父ジョー・ジャクソンとの関係に集約されている。
バラエティはヒットの理由として、
「観客が求める要素を徹底的に満たしている」
「名曲の連続による体験型構成」
「ファンがすでにアートとアーティストを切り分けている」
などと分析している。
▪️続編で“もう一つの物語”へ?
さらに、ライオンズゲイトの会長Adam Fogelsonは、続編で疑惑を扱う可能性に言及している。監督やキャストもすでに続編の可能性を語っている。
https://www.businessinsider.com/lionsgate-boss-michael-reshoots-rambo-prequel-john-wick-2026-4
▪️監督の意図。
https://www.newyorker.com/magazine/2026/04/27/antoine-fuqua-profile
監督のアントワン・フークアは、ニューヨーカーの記事で、ディレクターズカットを提出した後に、再撮となり大きな衝撃だったと語っている。また、作り直した本作では、マイケルを“人間として描く”ことに焦点を当てたと説明している。
ジャファー・ジャクソンが演じる主人公を通して、ジャクソン5時代からソロキャリアに至るまで、その複雑な人生、芸術的な天才性、そして個人的な葛藤を掘り下げていく。
本作は約2時間半にわたり、彼の歩みを包括的に描こうとするものであり、圧倒的で“魔法のような”才能を際立たせながらも、その裏にある不安や脆さといった内面にもしっかりと根を下ろした人物像を提示しようとした、と。
また疑惑については「真実はわからない」としながらも、一部の告発には懐疑的な見方も示し、とりわけ、2019年のドキュメンタリー『Leaving Neverland』で取り上げられたような告発に関して、フークアは告発者の親たち――チャンドラーの父エヴァン・チャンドラーを含む――の意図に疑問を抱いていると語っている。「特に黒人で、しかもある種の立場にいる人間に関する話を聞くときは、いつも一歩引いて考える」と。さらに、「金のためにひどいことをする人もいる」とも述べている。
▪️音楽は再びチャートへ
たとえば、キーとなるシーンの一つ。“Motown 25”でパフォーマンスされる“Billie Jean”は、Global Spotify チャートで9位に浮上。
“Beat It”
なども次々にチャートに返り咲いている。
サントラ『Michael: Songs From The Motion Picture』も配信中だ。収録曲は以下の通り。
I’ll Be There – Jackson 5
Never Can Say Goodbye – Jackson 5
Who’s Lovin’ You – Jackson 5
Medley: I Want You Back/ABC/The Love You Save (Live) – The Jacksons
Ben (Live) – The Jacksons
Don’t Stop ‘Til You Get Enough – Michael Jackson
Beat It – Michael Jackson
Thriller – Michael Jackson
Billie Jean – Michael Jackson
Wanna Be Startin’ Somethin’ – Michael Jackson
Human Nature – Michael Jackson
Workin’ Day and Night – Michael Jackson
Bad – Michael Jackson
今作はとにかく、これは多くの批評家も認めている通り、子供時代も含めてマイケルを演じた2人の役者がとにかく見事だ。
批評家は物語の欠落を指摘しているけど、これまでの数多くの音楽伝記映画を振り返っても、アーティストの苦悩や闇といった複雑な側面を深く掘り下げることは容易ではない。
むしろ観客は、そうした内面の再現以上に、楽曲やパフォーマンスを追体験できる“体験型”の作品に強く反応し、それがヒットにつながる傾向があるように思える。
日本の予告編はこちら。