①西藤公園
back numberがインディーズ時代にリリースした1stミニアルバム『逃した魚』。そのラストにに収録された楽曲はこれ。今聴いてみると、清水依与吏(Vo・G)のソングライティングの原点に触れるような思いがする。清水の出身地に実在する公園の、そのリアルな風景から滲んでくる実体験ともフィクションとも言えない「物語」の一場面のような歌が感動的だ。ミドルのバラードで、愛する人に届かない思いを、冬の寒い日の白い息に喩えて歌詞にするあたり、情景描写におけるオリジナリティがすでに確立されているのがわかる。現在のback numberへとつながる様々な魅力が詰まったこの曲の物語は、後に2ndシングルとしてリリースされる“花束”へとつながるとも言われる。
②はなびら
2011年4月、メジャーデビューを果たしたback numberの記念すべき1stシングル。清水が紡いだ切なく焦燥感を感じさせるメロディを、ストリングスのサウンドがよりドラマチックに彩っていく。心躍るはずの季節に大切な人の不在を感じている男の目に映るのは美しい桜の花の景色ではなく、枯れ落ちる花びら一枚。先の“西藤公園”もそうだが、清水は季節を歌詞に取り入れるのが抜群に巧い。そこに現れる風景を歌の主人公の心情に重ねていくのだ。それにしても、この“はなびら”での清水の歌唱はエモーショナルで、若さゆえの切実さも滲み、それが楽曲の物語にとてもよく合っている。
③スーパースターになったら
メジャー1stアルバム『スーパースター』。その表題曲となったこの楽曲は、現在でもライブでの定番曲のひとつで、初期back numberを象徴する1曲である。消すことのできない恋心をなんとか前向きに昇華しようと思う切ない感情が、叙情的なメロディと印象的なギターフレーズとで表現されている。湿っぽくなりがちなテーマをむしろカラッと小気味好いポップミュージックに仕上げていて、引きずる思いを断ち切りたい、でも断ち切れない、そのせめぎ合いが見事に表現されている。アルバム『スーパースター』を完成させたことで、清水依与吏はより多彩な楽曲を生み出すソングライターとして、高い評価を得ることになる。
④高嶺の花子さん
2013年6月にリリースした8thシングルは、back numberの新境地を見せた楽曲。プロデューサーに蔦谷好位置を迎えて制作が行われ、リリース当時のインタビューによれば、清水は蔦谷に「ぶっ壊してください」と伝えたのだとか。新機軸でありながら、タイトルでの遊び心や、絶妙なバランスで存在する自虐的な視点などはインディーズ時代のback numberにも通ずるものがあり、彼らの本質をより色濃く表出させた作品であるとも言える。どこまでも暴走していく妄想をコミカルに歌詞にしながら、それを洗練された切ないポップソングとして成立させていて、清水のメロディメイカーとしての力量が露わになった作品だ。サビのメロディ展開が秀逸。
⑤繋いだ手から
アルバム『ラブストーリー』からの先行シングルとしてリリースされたこの楽曲は、失った日々を思う内省の中に一筋のポジティブな希望の光を見つけたような、back numberの恋愛ソングの中でも、明確な「答え」が提示された楽曲のように思う。サウンドや歌声の迷いのなさが聴く者の心にストレートに刺さり、シンプルなグッドミュージックとして鳴り響く。back numberの楽曲の中で「普遍的な魅力を持つ1曲」と問われたら、個人的にこの楽曲を推したいと思う。アルバム『ラブストーリー』の世界観を印象付ける楽曲としても非常に重要な作品。
⑥世田谷ラブストーリー
※短編映画『世田谷ラブストーリー』2014年3月にリリースされた4thアルバム『ラブストーリー』に収録された楽曲。この歌自体が1本の映画のようで、誰もが共感できる甘酸っぱくもリアルな心情が綴られている。恋愛関係未満のふたりが居酒屋で楽しい時間を過ごした後に駅の改札口で手を振って別れる。なぜ引き止めなかったのか、その瞬間の後悔と、でも今度こそはと思う、その言葉にしがたい喜びのようなものが溢れている。back numberの歌の持つ「物語性」は、『ラブストーリー』のアルバムコンセプトとともに、よりブラッシュアップされ、“世田谷ラブストーリー”はその象徴的な1曲となった。この楽曲をもとに行定勲監督が撮った短編映画も、物語の解釈を広げ、新たな感動を生んだ。
⑦SISTER
2015年5月にリリースされた12thシングルの表題曲。清水依与吏の作る切ないメロディや歌声が冴え渡る。当時、ポカリスエットのCMコンセプトに沿って書き下ろされたタイアップ曲だが、日常で出会う困難を乗り越える強さを受け取る、普遍的なメッセージを持つ楽曲だ。恋愛ソングではなく、少し先を歩む「兄」のような立場から、あたたかく見守るような眼差しで書かれた歌詞は、今も多くの人の背中をやさしく押してくれる。恋愛ソングのイメージが強いback numberだが、こうしたある種のメッセージソングを取り上げてみても、そこにある清水の視点はやはりパーソナルな経験を色濃く反映し、抽象的な言葉も力強い説得力を持つ。だからこそ、いわゆる「応援ソング」であっても、リアルに聴き手の心を揺さぶるのだ。
⑧手紙
『SISTER』から約3ヶ月という短いスパンでリリースされた13thシングルの表題曲。“ヒロイン”以来、2度目となる小林武史のプロデュースが、楽曲をよりドラマチックに彩っている。この楽曲のテーマは親への愛。ふだんは口にできない言葉を歌にのせるという行為、その遠回しな愛情表現こそが、まさしくリアルな両親への感情そのもの。手紙でなければ、歌でなければ言葉にできない感謝の気持ちだ。《愛されている事に/ちゃんと気付いている事/いつか歌にしよう》という歌詞は、「ちゃんと気付いている」と断言するよりも数百倍リアリティがある。そしてとてもあたたかい。この“手紙”をリリースした当時、清水はこの楽曲を「これが唯一のラブソングなんじゃないですかね。そこに愛があるということを歌っているので」と語っていたが、それだけ個人的なピュアな思いを綴ったものだとも受け取れる。
⑨クリスマスソング
『手紙』から3ヶ月、14thシングルとしてリリースされた楽曲。月9ドラマ『5→9~私に恋したお坊さん~』の主題歌としても話題を呼び、大ヒットを記録した、back numberならではのクリスマスソング。“手紙”に続き小林武史がプロデュースを担当。クリスマスに一人で「君」を思いながら、伝えたい思いがどんどん膨らんで、それでも最後にようやく《君が好きだ》という言葉にたどりつく。清水のソングライティングの過程がそのまま純粋な愛を伝える言葉へと導かれるようで、これ以上ないシンプルな言葉が深い深い感動を生む。ふたりで過ごす幸せなクリスマスではなく、恋人に出会えない寂しいクリスマスでもなく、一人、自分の思いを再確認して心に刻むような、こんなクリスマスソングはback numberにしか書けないんじゃないかと思う。
⑩大不正解
昨年8月にリリースされた18thシングル。映画『銀魂2 掟は破るためにこそある』の主題歌として書き下ろされた楽曲。「友情」をテーマにした楽曲でありながら、むしろそこには「個」としての強さや孤独が浮かび上がる。シンセや打ち込みを導入しながら、これまでになくアグレッシブで不穏で畳み掛けるような楽曲をシングルの表題曲に持ってくるということ自体が、back numberの新たなチャレンジでもあり、実際この楽曲を含む、リリースされたばかりの最新アルバム『MAGIC』は、バンドが新たなステージに立ったことを明確に示している。ダークでヘヴィな一面は、これまでもシングルのカップリングなどで触れることがあったが、ごく自然にback numberの個性のひとつとして定着しつつあるのが興味深く、バンドの音楽性は、この最新アルバムでさらに広がりを見せている。
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