本記事は、現在発売中のロッキング・オン6月号、巻頭:ダンスロック特集に掲載されている、伝説の祭典:エレクトラグライドにスポットを当てたメモリアルテキストです。2000年代の日本におけるダンスロックシーンを象徴し、熱狂的な盛り上がりを見せた国内最大級のレイヴイベントの全貌を今あらためて振り返ります。ぜひお楽しみください!
文=小野島大
「エレクトラグライド」は2000年から2013年の間、千葉:幕張メッセで断続的に計9回行われた屋内レイヴパーティー〜ダンスフェスティバルである。多い時で3万人を超える動員のある電子音楽系の大型イベントだった。私はその全部に参加している。すべてを覚えているわけではないが、それでもいつも最高の時間を過ごしていたという記憶はしっかり残っている。
出演アーティストはアンダーワールド、オービタル、ファットボーイ・スリム、エイフェックス・ツイン、クラフトワーク、スクエアプッシャー、ザ・プロディジー、LCD サウンドシステム、!!!、オウテカ、バトルズ、フライング・ロータス、ジェイムス・ブレイク……等々。この時期の主だったテクノ〜エレクトロニカ〜ダンスロック系のアクトは、ケミカル・ブラザーズ以外ほぼすべて出演していると言っていい。
第1回が行われた2000年は「サマーソニック」が始まった年でもあるが、当時はまだ幕張の開催ではなく、幕張メッセが大型音楽フェスで使われるのはエレグラが初めてだったはずで、あの巨大ホールがやたら広く感じたことをよく覚えている。フロアを3つに分け、フードエリアを挟んでDJフロアとライブフロアを分けて進行するのも当時としてはきわめて画期的だった。その後の屋内大型フェスの基本形が最初から出来上がっていたということだ。
エレグラはDJものとライブもの、つまりダンスミュージックとロックを対等に共存させ、ジャンルの壁を取っ払ってあらゆる音楽を公平にプレゼンする、という姿勢が最初から明確だった。エレグラが始まったのは2000年だが、同じ年には屋外レイヴの代表格「メタモルフォーゼ」も始まっている。前年には石野卓球主催の「WIRE」もスタートしている。
この時期はさまざまなレイヴが日本各地で行われた。エレグラや「WIRE」のような大規模なものから、数十人単位で催されるこじんまりとした野外パーティーまで、さまざまなダンスイベントが行われるようになったのが2000年前後なのである。「フジロック」が現在の苗場に移ったのは1999年だし、「サマーソニック」が始まったのも2000年だ。そのあたりから、日本に本格的なフェスティバル文化が根付き始めた。フェスではらゆる音楽/あらゆるアーティストが並列であり、観客はそれらを等しく受け入れ共有することができる。ジャンルなど関係なくさまざまな音楽を分け隔てなく聴くリベラルなリスナーが増えてきたのだ。
エレグラと言えばアンダーワールドの印象が強い。野外レイヴの先駆け「レインボウ2000」(1996年)で見て以来、彼らのライブはいつでも私にとっては大切なものだった。ダレン・エマーソン脱退後の初来日となった第1回エレグラもよく覚えている。ふたりになったアンダーワールドは、しかしそれまで以上に素晴らしいライブを披露して、私を安心させてくれた。“Moaner”のミニマルな四つ打ちが刻まれた瞬間の圧倒的な高揚感は今も記憶に鮮明だ。フェスという場はワンマンライブ以上にその高揚感を共有できる。
ライバル(?)オービタルのサービス精神たっぷりのライブもいつも最高で、特に2012年は大傑作『ISAM』リリース直後、大がかりなセットを持ち込みその世界観を完璧に表現した驚異のライブを披露したアモン・トビンのハードでストイックでアーティスティックなパフォーマンスと好対照で、やはりエンタメに徹した電気グルーヴと共に印象に残っている。オービタルの後半がフライング・ロータスとかぶっていて、めちゃくちゃ迷ってフライング・ロータスに向かったのをよく覚えている。
翌2013年はジェイムス・ブレイク、ノサッジ・シング、マシーンドラムと、当時隆盛を極めていたUKベース色濃いラインナップで、とりわけ印象的だったのはON-Uの総帥エイドリアン・シャーウッドとブリストルの若きダブステッパー、ピンチという師弟デュオによる容赦ない重低音攻撃だった。歴史を重ね音響面でも初期とは見違えるように進化したエレグラの真価を見るようだった。
「WIRE」も「メタモルフォーゼ」も、そして「エレクトラグライド」も2012〜2013年に相次いで終了している。終わった理由はそれぞれだろうが、エレグラが育みリプレゼントした「ダンスロック」がその後、とりわけそう謳わなくてもすっかりロックの一形態、いや主流として定着したことを考えれば、正しく「役割を終えた」というのが正解かもしれない。もちろん、日本があの頃とは比較にならないぐらい「貧しい国」になってしまったという理由も大きいのだが。
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