①OMOIDE IN MY HEAD
「ドラムス、アヒト・イナザワ!」の向井のコールからアヒトの爆裂ドラムが鳴り渡り、獰猛でセンチメンタルなサウンドとともに歌われる《ねむらずに朝が来て ふらつきながら帰る/誰もいない電車の中を 朝日が白昼夢色に染める》のフレーズが、聴く者すべてを17歳の焦燥の真っ只中へと引き戻す――。インディーズ時代のアルバム『SCHOOL GIRL BYE BYE』の冒頭を飾る一曲であり、NUMBER GIRLの非凡な輝きをいち早く決定づけた名曲。終始沸騰状態のNUMBER GIRLのライブにおいてもひときわエモーショナルな場面を描き出す。②IGGY POP FAN CLUB
“EIGHT BEATER”とともに「オーソドックスな8ビート・サイド・オブ・NUMBER GIRL」の象徴のようなこの曲で、どこまでも熾烈な狂騒感に満ちたポップを生み出してみせるあたりからも、NUMBER GIRLのアンサンブルの肉体性と爆発力は十分に感じられることと思う。《君は家猫娘だった/この部屋で いつも寝ころんで》、《このレコードを 君は嫌いって言った》という日常風景を通してオルタナの極致を堂々と響かせる人気曲。解散前ラストライブとなった2002年11月30日・札幌PENNY LANE 24公演を締め括ったのもこの曲である。③透明少女
《赤いキセツ 到来告げて/今・俺の前にある/軋轢は加速して風景/記憶・妄想に変わる》という向井の清冽なイメージが、そのまま轟々と鳴り響いてくるかのようなメジャーデビューシングル曲。東芝EMI(当時)のスタジオでレコーディングしたテイクを「メジャーっぽい」という理由でボツにして、地元・福岡のスタジオで8トラックレコーダーで録り直したこの曲の音像――全パートの音が回りまくり、アンプの爆音と弦をピッキングする生音が同時に聴こえる歌と音の渦は、当時の向井とバンドの自立精神をリアルに物語るものだ。④YOUNG GIRL SEVENTEEN SEXUALLY KNOWING
いわゆるラブソング的な世界観とは一線を画した向井の詞世界を決定づけるのは、何と言っても「少女」の描かれ方である。“OMOIDE IN MY HEAD”のようなファンタジックなアイコンとしてだけではなく、性的にミステリアスな雰囲気をまとった存在としても登場する「少女」。《家猫娘は久しぶりに街へ出た/幼いころから知っていたことは多くある》――「家猫娘」の日常と都市の風景のコントラストが、ポップな楽曲の中でどこか不穏な胸騒ぎを掻き立てる。メジャー1stアルバム『SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT』(1999年)収録。⑤DESTRUCTION BABY
デビューシングル『透明少女』(1999年5月)のリリースの2ヶ月前、「SXSW」出演のため渡米したNUMBER GIRLはデイヴ・フリッドマンのスタジオを訪れてバンド初の海外レコーディングを行い、この2ndシングル曲“DESTRUCTION BABY”を完成させている。“透明少女”で追求した「4人の音が渾然一体となったサウンド」をさらにハイパーに結実させたこの楽曲は、《破壊 はかなくも/見事にぶっ壊された/Absolute Destruction/眩暈みんな 死にもの狂い》という歌詞のモードとともに、バンドの歩みを一気に加速させていく。⑥SASU-YOU
《ヤバイ さらにやばい バリヤバ》と切迫感を歌い上げる“ZEGEN VS UNDERCOVER”とともに、メジャー2ndアルバム『SAPPUKEI』(2000年)の肌を刺すような緊迫した空気感を雄弁に物語る一曲。コードやリズムのセオリーを度外視し、4人一丸となって魂の衝撃音を響かせるような凄絶な音像。《刺すYOU TOURIMA 辻斬り》と言葉の真剣をロックの真芯に突き立てる向井の絶叫――。狂騒感をさらにカオスで上塗りするような2分20秒の暗黒は、危ういくらいのスピードで音楽的進化を続けていた4人の佇まいを如実に伝えている。⑦TATTOOあり
『SAPPUKEI』の中でも最大級にドラマチックな時間を描き出す、紅蓮のハードコアアンセム。《右肩/イレズミ/明け方/残像》の向井の咆哮が聴く者を日常から引き剥がし、《黒っぽいTシャツを脱いだときはもう朝焼け。/照らされるイレズミはハートの模様だったかな?》と狂おしい感情の坩堝へと叩き込む。楽曲のアウトロ部分では、田渕のジャズマスターからびりびりとあふれ出すように鳴り渡る激奏とフィードバックサウンドが、中尾&アヒトの爆裂ビートとせめぎ合い圧巻のカタルシスを噴き上げる。頭も心も震撼必至の一曲。⑧鉄風 鋭くなって
この曲に関して向井はかつて「ギリまでできなかったよね、歌詞が。(中略)それでずっと、スタジオに泊まり込んで。布団がないから、スタジオに置いてあるグランドピアノのカバーを布団代わりにして寝てた」と語っていた。『SAPPUKEI』まで怒濤の勢いで楽曲を作り続けてきた向井が、新たな言葉と音の切っ先を求めて自問自答を繰り返していたことが窺える。そして、《オレ いま橋の上 鉄風あびて 鋭くなって》と五感を研磨する世界観は、メジャー3rdアルバム『NUM-HEAVYMETALLIC』(2002年)に向けてさらに鍛え上がっていく。⑨NUM-AMI-DABUTZ
『SAPPUKEI』から一転、ロックとダブとヒップホップが同時再生されたようなタイトでカオティックなバンドアレンジ。向井の都市観そのものの《冷凍都市》のワードを随所にちりばめながら、《俺は極極(きわきわ)に集中力を高める必要がある。》、《鋭角恐怖症のヤツは耳をふさげ。》と全身痺れるくらいの緊迫感を楽曲に注ぎ込んでいく、重力崩壊レベルの焦燥感に満ちた歌。『NUM-HEAVYMETALLIC』のリードシングルとなったこの曲で、ロックもオルタナも踏み越えた異形のバンド進化形としてのNUMBER GIRLを完膚なきまでに提示してみせた。が、このシングルのリリースから約半年後に、バンドは解散をアナウンスすることになる。⑩I don’t know
《あの娘の本当 オレは知らない/あの娘のうそを オレは知らない/I don’t know》――ブルータルな音塊の果てに目映い純度を獲得したこの“I don’t know”のダイナミズムは、どれだけ時を経て音楽シーンが多様化/細分化しても更新不能なバンド表現の奇跡を感じさせるものだ。『NUM-HEAVYMETALLIC』発売直前、映画『害虫』のサウンドトラックとして発売されたインディーズシングル『I don’t know』が、結果的にNUMBER GIRL解散前ラストシングルとなることなど、リリース時点にはまるで想像していなかった。ちなみに、前述の2002年・札幌PENNY LANE 24公演は“I don’t know”から始まった。曲に入る前、向井が6弦をドロップDにチューニングし直す際のギャウーンという尖った音は、今も脳裏に焼き付いている。「1995年夏から我々自力を信じてやってきたNUMBER GIRLの歴史を、今ここに終了する」……あの音を2019年の今、再びリアルタイムで聴けることなど、解散当時はまるで想像していなかった。NUMBER GIRLが「今」の音楽として響くことの意味を、当時体験した人も新たに魅了された人も含め、ひとりでも多くの人に感じていただければと思う。