【10リスト】Hump Back、一生聴き続けられる名曲10はこれだ!

【10リスト】Hump Back、一生聴き続けられる名曲10はこれだ!
Hump Backの音楽的支柱であり、インディー時代から現在まで数々の名曲を書き続けている林萌々子(Vo・G)には、ソングライターとして大きなターニングポイントを迎え、それ以前とそれ以降では書く曲が大きく変わった(以前も以降も素晴らしい曲ばかりなのだが)時期がある。ROCKIN’ON JAPANの2022年9月号で、Hump Backの歴代の各時代を象徴する5曲と、2022年8月10日リリースのEP『AGE OF LOVE』を語ってもらうインタビューを行った時に、そのことが改めてわかった。
というようなことなどもふまえて、編集部が選んだ「Hump Backの一生聴き続けられる10曲」を解説したのが、以下のテキストである。ファンには言うまでもないが、この10曲以外もいい曲だらけなので、「この10曲を聴けばいい」じゃなくて、「この10曲をきっかけに全曲にズブズブはまっていく」ための、最初のとっかかりになれば、幸いです。(兵庫慎司)


①サーカス

現在Hump Backが所属するマネージメントと組んだ最初の作品である、3曲入りシングル『帰り道』(2015年4月リリース)の1曲目。2015年に当時のメンバーが脱退し、林萌々子ひとりになってしまった時に、何年も前からライブを観に来てくれていたマネージメント会社の社長が声をかけてくれて、サポートメンバーと共にレコーディングした作品だという。MVに映っているのが、テレキャスターを弾きながら歌う林萌々子ひとりだけなのは、そういう理由。この作品をリリースした年にぴか(B・Cho)、翌年に美咲(Dr・Cho)が加入し、今の3人が揃う。
歪んだギターがジャキジャキ響き、林萌々子が朗々と歌う、今のHump Backの王道な曲調だが、ワルツで始まってサビで8ビートに切り替わるリズムが特徴的でもある。
《もうすぐ着くから/ああ このままいっそ/連れ去ってくれないか》というような気持ちを描いたラインと、《国道24号線 歩道橋100円コーヒーと/朝焼け待つ君の横顔と/言葉を待つ僕を照らす月》という具体的な描写が入り交じる、林萌々子のソングライティングの特徴が、この時点で既に確立されている。

②月まで

現在の3人になって最初の音源であるミニアルバム『夜になったら』(2016年12月リリース)の1曲目。《もう一歩足りてなかった/もういっそやめてしまいたかった/暮らしの中の中で》と始まり、《あぁ、なんか飽きてきたんだ/あぁ、ちょっと疲れが溜まってるんだ/暮らしは良くはならない/髪でも切りにいこうぜ!》を経て、《夢で逢えたら ベイビー/なんて考える間も無く今日が終わるよ/君はどうだい?》に行き着く歌詞が、抑揚の大きなメロディと緩急の激しい演奏に乗って歌われる。言いたいことだけを叩きつけて2分で終わる、みたいな、簡潔な曲である。
当時の己の感情を、整理整頓したり解析したりせず、混沌を混沌のまま描いたような生々しい歌だが、《髪でも切りにいこうぜ!》や、《朝が近いんだ》《君はどうだい?》の歌いっぷりに、不思議な開放感が宿っているところがポイント。出口が見えないということは、今の自分にとって苦しみではあるが、出口が見えないということは「まだ終わっていない」ということの証でもある、そういう希望を放っている曲なのかもしれない。と、聴き直して思った。

③星丘公園

2017年11月リリースのセカンドミニアルバム『hanamuke』のリード曲。《君が泣いた夜にロックンロールが死んでしまった》という歌い出しがインパクト抜群の、初期Hump Backを代表する曲で、今でもライブにおける重要なポイントを担うことが多い。リリース当時、その冒頭の歌詞に関して質問されることが多かったが、自分でもなんでこう書いたのかがわからなくて困った、と、後に林萌々子は言っていた。
確かにこの曲、一行ごとに違うことを歌っているみたいで全体のつながりがわからないし、テーマも曖昧だ。この歌詞で、なんでタイトルが「星丘公園」なのかも謎だし。が、であるがゆえに、初期Hump Backを代表する名曲たりえている、とも言える。意味わからんとか、矛盾しているとか、辻褄が合っていないとか、どうでもいい。そういうものでも、いや、そういうものであるからこそ、さらに、「わかる」し「伝わる」し、心に強く深く突き刺さる。ポップミュージックには、そういうことが起きる場合がある。という事実を、立証している曲だ。
何について歌われている曲なのかわからないのに、リリックの一行一行が理解できるし、林萌々子の声が形作るメロディも、ぴか&美咲のコーラスも、ギターとベースとドラムのその瞬間瞬間のフレーズも、なんでこうでなければならないのかが、いちいちわかる。

④拝啓、少年よ

これを書いている2022年8月の段階で、Hump Backのレパートリーの中で、最も世に知られている曲。メジャーファーストフルアルバム『人間なのさ』の収録曲で、2018年6月にリリースされたメジャーデビューシングルでもある。
というタイミングの曲だったから、というのもあるのかもしれないが、ソングライターとしての林萌々子のターニングポイントになった曲である。ここまでの3曲で解説してきたように、抽象的な思いを抽象的なまま描くことに長けていたのが、これまでの林萌々子のソングライティングだったのが、この曲からいきなり具体的になっている。誰かに向かって書いていることがわかるし、何を伝えたいのかも明確である。個としての思いを吐き出すように曲を書いていたのが、伝えたい相手がいて、伝えたいことがあるから、それを歌にする、というふうに変わったのだ。
林萌々子によると、高校の時に仲がよかった友達が、一回「飛んだ」こと、その子のことに限らず、自分も周囲も生活や人生が変わる時期を迎えていたことが、この曲を書いた動機だという。ただ、当人としては、ここまで書いたような「自分のソングライティングにおけるターニングポイントになった曲」みたいな意識はなかったそうだ。まあ、そういうもんだと思う、才能ある人というのは。

⑤LILLY

『人間なのさ』のリード曲で、「2分台ですべてを伝えきるバンド」Hump Backの面目躍如な曲である。勢いに満ちていて、ドライブ感に溢れていて、口ずさみたくなる明快なメロディで、カラッとしているのにどこかセンチメンタルで切ない──という。今の3ピースのロックバンドの定型みたいな曲、という捉え方もできるが、でも他のバンドだったら「こういう感じの曲」は作れても、「こういう感じでこんなにいい曲」は決して作れない。
『人間なのさ』がリリースされた時、このrockinon.comの『今週の一枚』のコーナーで、峯岸利恵が、“LILLY”は林萌々子の愛犬が亡くなったことがきっかけで書かれたのではないか、と推察していた(記事はこちら)。それを読んで、曲を聴き直して、「なるほど、そう言われると確かにそうかも」と納得したり、「亡くなったあとというよりも、今にも亡くなりそうな時の思いを書いた曲かな」と思ったりしたのを覚えているが、そのように、ペットとか身内とか大事な人とかを失った(もしくは今まさに失おうとしている)人に刺さる曲、というレベルに留まらず、誰かのことを強く愛しく感じたことがある人なら共鳴できる曲になっているのが、林萌々子というソングライターの強さ。

⑥僕らは今日も車の中

『人間なのさ』収録の、タイトル通り、クルマで各地を回り続けるツアーバンドの日常を描いた楽曲。その筋の名曲としては、フラワーカンパニーズの“深夜高速”があり、Hump Backはツアーに何度も対バンに招くほどフラカンをリスペクトしているので、自分たちなりのそういう曲を書こう、という気持ちもあったのではないか。と思うが、その“深夜高速”のシリアスさと比較すると、もっとキラキラしていて青春感に満ちている。曲の最後の《海岸線に月が浮かぶ/綺麗だからって起こされて知ったんだ/こんなことを幸せと呼ぶのさ》というラインは実話であることを、林萌々子はあちこちのインタビューで話している。美咲が彼女を起こしたそうだ。
ちょっと歌ものラップっぽい曲調も、Hump Backとしては新鮮。ツアー各地でスマホで撮った映像をつなぎ合わせたMVもいい。この曲の中の《僕らの夢や足は止まらないのだ》というラインから、全都道府県ツアーのタイトル「僕らの夢や足は止まらないツアー」が付けられた。
ただし、キラキラしていて青春感に満ちている反面、《グンナイ オーライ 僕らの幸せは僕らだけのものだ!》というラインに、当時の心境を込めたことを、前述のインタビューで、林萌々子は明かしている。バイトして得たカネを注ぎ込んでバンド活動を続けていた頃、親などの周囲に心配されていたが、自分はそれが幸せだった、自分の幸せは自分の幸せでしかない、だから自分がその幸せを理解できていればいい、という。
そんなことまで考えると、さらに味わいが深い曲。後半に突然出て来る《最後の最後は分からない 最愛産みたいってことくらい》というラインも、とても効いている。

⑦ティーンエイジサンセット

コロナ禍になって最初に作った音源である、3曲入りシングルの表題曲(2020年8月リリース)。これまでは、もっといいライブをやりたいのにどうすればいいのかわからない、という自分内ジレンマが何年も続いてきたが、この曲を作った頃からライブのイメージが湧いてきた。ということは、Hump Backにとっての「ライブがこうなったら最高」というのが、見えてきたのかもしれない──と、林萌々子は話していた。まさにその言葉通りの、ライブで力を発揮しまくる曲になっている。
それから、「『少年少女の背中を押す』ではなくて、『少年少女のほうを向いて歌っている』というイメージになってきた」、つまり自分が歌を届ける対象が明確になってきた、ということも、彼女は言葉にしていた。要は“拝啓、少年よ”から始まった変化が完成を見たのがこの曲、とも言えるかもしれない。
そのような明快なメッセージを次々と放った末に、後半で曲のテンポが半分になり、それに乗せて3人がユニゾンで《もしも永遠があるなら約束なんて必要ないね/もしも永遠が無いなら終わらない歌をうたおう》と歌うブロックが、特にゾワッとくる。

⑧番狂わせ

この曲を自分が初めて聴いたのは、確か音源ではなくライブだったと思うが、セックス・ピストルズまんまなイントロで、まず爆笑したことと、曲が進めば進むほど痛快な気持ちになったことを、よく覚えている。
2作目のフルアルバム『ACHATTER』(2021年8月リリース)のリード曲。《生き抜くために生きてる》《生き抜くために息してる》と《息抜くために生きてる》《息抜くために息してる》のところを思いついたのが、この曲を書いた最初のとっかかりだそうだが、かつては「10代最高、大人になりたくない」みたいな曲が多かったのに、この曲では《おもろい大人になりたいわ》《しょうもない大人になりたいわ》と歌っていることや、《臆病者がゆく 笑われ者がゆく/僕たちが歩く道さ/言いたい奴には言わしとけ/こちとらはち切れそうなくらい》と言い切っていたりするあたりに、今のHump Backならではの力強いスタンスが表れている曲である。
ただし、そういう曲のタイトルが“番狂わせ”であるあたりに、「で、なんでこれのタイトルが“星丘公園”なの?」と言いたくなる、初期の名曲に通じるものもあったりもする。あと、この曲全体における、林萌々子のパンクロックなギターワーク、やたらとかっこいい。この曲のMVで、彼女はそれまでは使っていなかったセミアコを弾いている。セミアコを弾くようになってギタープレイの幅が広がった、というのは、10年くらい前の横山健Hi-STANDARD)もそうだったなあ、と思い出したが、偶然だと思います。

⑨きれいなもの

《地面を転がり続ける夏のように》って、《夏》の前に《地面を転がり続ける》をくっつける作詞家、他にいない。「夏」は普通、そんな、地べたを這うみたいな文脈で使われるワードではないので、歌の世界では。
そして、《君のかわいいその小さな小さな目から》。涙がこぼれる描写の際に、《目》に《小さな小さな》を付ける作詞家も、同じく、ほぼいない。普通「目」には、「大きな」とか「澄んだ」とかがくっつくものなので、歌の世界では。僕の知っている前例は、《君のその小さな目から/大粒の涙が溢れてきたんだ》と歌ったフジファブリックの“茜色の夕日”ぐらいだ。その当時もびっくりした記憶がある、「《小さな目から》なんだ?」と。
じゃあ林萌々子はなぜそう書いたのか。ただ単に、そう感じたからだ。で、それを歌にする際に、「でも歌詞の言い回しとして、おかしいか」というブレーキを踏まなかったからだ。というか、そもそもブレーキが搭載されていない人だからだ。
という、林萌々子のソングライターとしての才がほとばしっている、セカンドフルアルバム『ACHATTER』の収録曲。Hump Backの中にいくつかある、バラード方向に振り切った楽曲の中の、代表的な存在である。前述のような林萌々子にしか紡げない言葉が、淡々としていて素朴できれいなメロディに乗って、歌われる。
《美しいものばかり主役になるから/汚れたものをじっと磨いてゆきたい》《楽しいものだけを集めて並べたら/悲しみが少しだけ置いてけぼりになる/あったらあったで やっかいだけどさ/無ければ無いで寂しいものだね》というあたりも、この人ならではの視点で、素晴らしい。

⑩僕らの時代

2022年夏の時点での最新作である、8月10日リリースの5曲入りEP『AGE OF LOVE』の1曲目。パンキッシュなギターサウンドの曲が並ぶこの作品の中でも、ひときわそんな、言わば勢いまかせな方向に振り切れている曲である。ラウドで速くて、あっという間に終わる。オリジナルパンクまんまな、超シンプルなイントロは、“番狂わせ”に通じるものがある。
《僕らの時代を生きるだけ》《愛しているからやめらんない!/どうにもこうにも止まらない》《僕という人は1人だけなんだ》といった、3人がユニゾンで叫ぶように歌っているラインが、この曲の重要なポイントになっている。全体に、自分たちの意志や気持ちを歌っている、というところもあるだろうが、それ以上に今の少年少女たちに向かって歌っている、という、“ティーンエイジサンセット”以降の目的意識に突き動かされて、書かれた要素が大きい曲である。アメ村とかで若者を見ていると、みんなすごくいきいきしている。ちゃんと自分の好きなものを持っている人が多い。きみが生きているだけで、きみが時代そのものだよ、と思う。“僕らの時代”と“がらくた讃歌”は、そういう気持ちで書いた――と、林萌々子は言っていたので。
つまり“僕らの時代”の「僕ら」は「きみ」である、ということだ。


【JAPAN最新号】Hump Back・林萌々子、Hump Backの5曲+最新作『AGE OF LOVE』を語る
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