結成20周年を迎え、ますますビーバーを取り巻く状況は広がっているが、だからこそ、彼らは目の前にいる一人ひとりを、今まで以上に誠実に、そして精緻に見つめようとしている。「あなたたちじゃなく、あなたに歌っているんだ」──ライブのたびに彼らが繰り返すメッセージに対して自分たち自身が真っ当であるために、ビーバーは今も歌を作り続けているのだ。
発売中の『ROCKIN’ON JAPAN』8月号では、国立代々木競技場での2デイズや、今向き合うすべてについても語った完全版インタビューを掲載! 是非あわせて読んでほしい。
インタビュー=小川智宏 撮影=アミタマリ
──シングルとしては“主人公”が表題曲になるんですが、まずはカップリングの“まなざし”の話からしたいと思います。この曲は映画『金子差入店』の主題歌ですね。是か非かだけでは言い切れないけどっていうところを特に丁寧に歌いたかった(柳沢)
柳沢亮太(G) これは1年前くらいにお話をいただいて作った曲なんです。映画の古川豪監督が『東京リベンジャーズ』の助監督をされていた方で、“名前を呼ぶよ”の映画版ミュージックビデオみたいなのを編集して作ってくれた人なんですけど、その方から「ぜひビーバーに曲を書いてもらいたい」ということでお手紙を頂戴したんです。そのお手紙には、監督ご自身もいろんなことがあって決して人に胸を張れるような日々ではなかったけれども、ご家族を持たれてお子さんが産まれて少しずつ自分の思考だったりも変わってきたっていうことが書かれていて。映画の中でも、主演の丸山隆平さんと息子とのやりとりみたいなのが象徴的に描かれるんですよ。俺が俺だけでいるときには俺だけの生き方でいいんだけれども、その俺だけの人生に大切な人が関わってきたときに、俺が大事だと思うものがその人にとっても大事なのか、正しいのか、みたいなことが映画を通してずっと描かれているような気がして、自分もそういうのを描ける曲が書けたらいいなっていう。そこはリンクするところもあったから。
──リンクというのは?
柳沢 何を繋いでいきたいかっていう。“まなざし”っていう言葉には次の世代っていう暗喩的な意味も込めているんですけど、あえて「《継》なぐ」っていう漢字を使ったのも、ちょっと下の世代に何を言えるだろうとか、今ビーバーとして胸を張ってどういうことが言えるだろうってことを考えて書いていたからなんです。残したいのはどういう気持ちだろう、みたいな。そうやって考えたときに、愛って漠然としたものではなく、でも、愛を伴った情みたいなものってやっぱり大事だよね、みたいなところなら歌えるんじゃないかって行き着きました。
──まさにその、愛じゃなくて《愛を伴う情》っていう言葉にしているところに、考えた痕跡があるよね。
柳沢 絶妙なんですよね。人としては間違ってると思うんだけど嫌いになれない、その気持ちの最後のひとつが残っているときに、その人との付き合い方をどうするかって。情だけだっていうつもりはないけど、愛ゆえでしょっていうだけでもないっていうか。じゃあビジネスかっていうとそういうことじゃないし。
──要するに《好きか嫌いかなら好きだよ》っていう気持ちをなんと呼ぶのかっていうことですよね。
柳沢 そう。二択なら好きっていう。是か非かだけでは言い切れないけどっていうところがほとんどだと思うから、この歌はそういうところを特に丁寧に歌いたかった。
──ぶーやんはこの曲を受け取ったときに真っ先にどういうことを感じましたか? これ、読み解くのが難しい曲だと思うんですよ。「あなたたちではなく」って言ってる以上、誰が何考えてるのかを、なるべくわかっておきたいっていうのがすごく強い(渋谷)
渋谷龍太(Vo) 映画を観ていない状況だと、今までの中ではわりと難しいほうだったなと思いますね。どの立ち位置で歌おうかなと思ってたけど、さっきヤナギが言ってたみたいな「横の繋がりよりも縦」っていうイメージがすごく強かったかな。横並びの関係性っていうのは今まで散々歌ってきてるし、わかりやすい部分であって、それこそSUPER BEAVERっぽいって言われる部分であると思うんですよね。でも今回みたいな縦軸がある楽曲っていうのは今までそんなになかった気がするから、レコーディングするときも「この曲をどうやって歌おう?」みたいなのは正直思いました。でも歌詞にある《強く優しくなりたい》が、結構答えな気がしました。これを体現できたらいいなって。強く優しくなりたいと思って歌うことが答えな気がしたんで、そこに自分のベクトルをグッと向けて歌ったイメージですね。
──この曲って、ある種矛盾をはらんでるっていうか、明確な答えっていうのは出せないテーマをあえて歌ってる曲で。でも、それはきっとSUPER BEAVERとして今向き合うべきテーマでもあるんだろうなと思うんです。今ビーバーの前には本当にたくさんの人がいて、それはこの曲で歌われているように単純な二択では割り切れない、一人ひとりが違う人たちで。ビーバーは「あなたに歌っている」と言い続けているけど、じゃあその「あなた」って誰なの?っていうところに、改めて向き合っている曲なんじゃないかなって。
渋谷 うん。なので、ライブでより個を出してほしがっている気はしますね。それこそ、「あなたたちではなく」って言ってる以上、そこの理解がないとただの嘘つきの歌になっちゃうと思うんで。そこはしっかりとわかっておきたい。誰が何考えてるのかを、なるべくわかっておきたいっていうのがすごく強い。最近、記号化していてちょっと怖いんですよね。たまにあるんですよ。SNSとかで投稿すると、各地で待ってる「あなた」に届きますよみたいな。いや、違うんだよって。カッコをつけて「あなた」って、違うんだよな、記号化されちゃ困るっていう部分はあって。そこって説明するの難しいし、あんまり説明的になりたくないんですけど、そういうところもバチッと伝わるようにしたいなっていうのは結構思ってますね。