偉大なバンドに名バラードあり。そのキャリアの中で多彩な楽曲を生み出してきた
ONE OK ROCKも、例外ではない。優しく美しいラブソングだけではなく、人生の中で掴み取ったあらゆる教訓をグッドメロディとして残し、またロックバンドとして情緒的なダイナミズムを注ぎ込んできた。Taka(Vo)の歌唱力が引き出されるのはもちろんのこと、都度さまざまな音楽的トライアルが結実して新たなクラシックと呼ぶべき名バラードが生み出されている点にも、注目してほしい。(小池宏和)
①A new one for all, All for the new one
メジャーデビュー後初のアルバム『ゼイタクビョウ』を締めくくる珠玉の名バラード“A new one for all, All for the new one”には、若きONE OK ROCKの活動をサポートし、そして他界した身近な人物へと寄せた思いが綴られている。悲しみに暮れながらも、生と死の狭間にある価値を見出し、Takaは《あなたが標した道しるべ/小石は僕が拾って歩くの!》と決意を刻み付けている。大人への疑念と反骨精神を抱いていたONE OK ROCKが、一方で重い現実を価値ある経験へと変換するさまが感動的なナンバーだ。
②My sweet baby
フォーキーで広がりのあるギターのリフレインが美しいラブソングだが、知らず知らずのうちに恋人に孤独感を抱かせ、諍いを繰り返してしまうという自戒の念が高まるにつれ、どっしりとしたリズムセクションが、そしてヘヴィ&ソリッドなエレクトリックギターのリフが折り重なってゆく。恋人たちの絆が、傷つき傷つけられる過程を経てさらに強く成長する、そんな様子を音楽的に表現したドラマティックなロッカバラードになっている。メキメキと演奏技術を向上させていたONE OK ROCKだからこそ成立した一曲。
③Wherever you are
Takaの、優しげで切々とした歌い出しには何度でもゾクゾクとさせられる美曲。アルバム『Nicheシンドローム』後半のエモーショナルな高揚感を担うように配置されている。リリース当時から人気曲だったが、後にNTTドコモのCM曲に起用され、アルバム曲であるにも関わらずONE OK ROCKの代表曲のひとつとして認知されるようになった。コーラス部分を含め英詞で表現される部分が多いが、永遠の愛を誓うために綴られたメロディとサウンドの熱量によって、揺るぎない普遍性を獲得している。
④C.h.a.o.s.m.y.t.h.
バラードと呼ぶには、強烈な推進力を宿したナンバーかもしれない。抑から揚、静から動へ展開するさまがダイナミックだ。タイトルは意訳すると「混沌とした神話」というところだが、メンバーの友人へと宛てられた友愛の歌であり、また新社会人へのメッセージソングでもある。友人とのかけがえのない時間を回想しつつ、それぞれの道を邁進するよう鼓舞するのだが、特筆すべきはコーラス部分の作詞の巧みさ。並列に綴られた英語パートと日本語パートのいずれもが、見事なフックと化している。
⑤Pierce
ロックバンドのサウンドだけには留まらないアルバム『残響リファレンス』の挑戦的な実験精神の中でも、ピアノとストリングスを中心にした“Pierce”のアレンジは印象深い。《君》との距離感に思い悩むラブソングであり、今にも引き裂かれそうになりながら深く思考する様子を、饒舌なメロディ展開が後押ししている。作曲においても、サウンド面においても、後のONE OK ROCKがより自由な表現へと踏み込むことを可能にしたきっかけの一曲と言えるのではないだろうか。
⑥カサブタ
前述の“Pierce”の流れを汲むような重厚なアレンジだが、よりエモーショナルなロック色を増した一曲。以前よりもぐっと大人びた愛の情動は、官能を嗅ぐわせる分だけさらに切なく響く。それを完璧に表現する、深みのあるメロディが素晴らしい。ソングライターとしてのTakaは、自身の歌唱力の可能性を引き出すように、楽曲を手がけてきたと言えるだろう。ダブルタイトルのシングル表題曲に負けず劣らず、大きなインパクトをもたらすナンバーになっている。
⑦Be the light
それ以前に韓国・台湾公演を行っていたONE OK ROCKは、『人生×僕=』を携えた全国ツアーを経て、欧州・アジアツアーへと乗り出す。彼らには全編が英語詞で綴られた楽曲がいくつかあったが、“Be the light”もまた全編英語詞のバラードだ。人生の中で抱え込んできた記憶や夢が、重荷となって肩にのしかかることもある。しかし彼らは俯くことなく、敢然と前に進もうとしていた。苦い経験も、見えない未来も、すべては道を照らす光になるはずだ。そんな祈りにも似た思いが伝うナンバーである。
⑧Heartache
全曲がUSレコーディング、多数の海外プロデューサーと楽曲を共作したアルバム『35xxxv』は、バンド史上初めてのオリコン週間アルバムランキング1位を獲得した。生々しく獰猛なサウンドからエレクトロニックなシークエンスまで、多彩な表情を見せるアルバムだ。中盤に配置された“Heartache”は、チェンバーポップ風のリッチなサウンドが傷ついた魂を優しくなだめるように響く一曲である。コーラス部分の狂おしい節回しを際立たせる、一瞬の静寂。海外ミュージシャンとのケミストリーによって生み出されたアレンジが光る。
⑨Always coming back
ジョン・フェルドマンとの共作。《君》との諍いに胸を痛め、後悔の念に駆られながらも明日を見つけようとする歌は、それ自体がONE OK ROCKにとって終わりのない戦いのテーマなのかもしれない。静謐なフレーズの交錯、控えめな距離感で聴こえてくるストリングスなど、一辺倒な音圧に頼ることのないサウンドデザインだが、熱いシンガロングのパートやしなやかなグルーヴによって、湧き上がるエモーションを表現している。技巧が冴え渡ったバラードだ。
⑩Wasted Nights
清らかでソウルフルなクワイアから始まり、開放感いっぱいに大海原へと飛び込む情景が伝う“Wasted Nights”。内面から湧き上がる欲求ごと未来を切り拓こうとする姿勢には、今なお衝動的であろうとするスピリットが新鮮なサウンドと共に焼き付けられている。バラードとは言い切れない部分もあるが、ポスト・ビートミュージック時代のトラックを大ぶりなグッドメロディとロックサウンドで呑み込んでゆくさまは痛快。「もう無駄な夜は要らないさ」という思いを胸に、革新的なロックをデザインしてゆく歌だ。