ONE OK ROCKにとっての「闘いの歌」。それは他者との闘いのみならず、誰もが経験する自我との格闘でもあり、そして今日を生きる我々の、新鮮な体験としてのロックを追い求める格闘でもある。自らを犠牲として身を投げ出し、痛みや苦しみを率先して受け止め、表現してきたONE OK ROCKは、苦悩と引き換えに新しい風景を獲得してきた偉大なロックアーティストたちと同様のステージに立っている。だからこそ、その楽曲たちは強くリスナーの心を揺さぶり、奮い立たせてくれるのである。(小池宏和)
①内秘心書
疾走感と情緒の熱量、バシバシと突き刺さるメッセージの響きが見事なトライアングルを形成する、メジャーデビューシングル曲。若きONE OK ROCKが大人へと投げかける疑念の強さと同等に、《I just keep it inside keep it inside 口には出せなくて》という内面の迷いにも注目すべきナンバーだ。闘うべき相手は外部のみならず、自分自身の内側にもいるのだということ。「ONE OK ROCK 2018 AMBITIONS JAPAN DOME TOUR」では、美しい響きのアコースティックセットで感情表現の本質をむき出しにした。
②100%(hundred percent)
荒削りな若々しさを覆い隠すよりも曝け出すことで、ONE OK ROCKの丸裸のアグレッシブネスを伝えた、『BEAM OF LIGHT』収録のロックチューン。全編が英語詞で綴られているけれども、キャッチーかつソリッドな礫と化したフックの威力は絶大だ。愚直なまでにロックミュージックの力に忠実であろうとした彼らは、むしろロックの力に酔うことなく、勝ちに転ぶか負けに転ぶかのスリリングな瀬戸際に立っている。「100パーセントの望み」を武器に変え、リアルな正念場でこそ闘争心を駆り立てる歌だ。
③完全感覚Dreamer
初の「オリコン週間シングルランキング」トップ10入りを果たした事実以上に、ONE OK ROCKのセンセーショナルな存在感を今日まで伝え続けているアンセム。現行メンバー4人で体勢を整え、再び走り出す狼煙となった。「感覚」的な「夢想」家の、形を成さないものを手掛かりに生きる人間らしいロマンチシズムが、爆発力へと転化されている。その感覚的な夢想は後に、我々を見たことのないロックの新たな風景の中へと連れて行くわけだが、時を経るほどに何度でも正しさが証明され、成長する一曲だ。
④じぶんROCK
タイトル通り「自分自身との格闘」というテーマが如実に現れたナンバーで、『Nicheシンドローム』の重心を担うような位置に配置されている。悩める者と真っ直ぐに向き合うドクターのごとき歌詞は、ほぼ全編が日本語で綴られており、メッセージ性を帯びたロックソングとしての即効性も高い。後半、突如として夢見心地なサウンドスケープとコーラスに持ち込み、そして猛り狂うような大サビを浴びせかける劇的な展開には、極めてロック的なショック療法の技巧が光っている。
⑤アンサイズニア
最終的にたどり着くシンプルな思考=「answer is near」をカタカナ表記にすることで、ONE OK ROCK独自の概念を打ち立てたシングル曲。《僕の思う当たり前は君にとって当たり前かな?/君の思う当たり前は僕にとって当たり前かな?》という認識のズレは、日々至る所で我々が直面し得るものだ。そんなとき、“アンサイズニア”は我々を無差別に巻き込むラウドなチャントとして降り注ぐ。出口の見つからない思いのすれ違いを抱えたまま、生きて、歌う。そんな覚悟が横たわるナンバーだ。
⑥NO SCARED
疲弊感と焦燥感、後悔や恐怖心に揉まれながら、ギリギリの崖っぷちでそのネガティブな感情を燃やし、力技で微かな希望を掴み取って行く強力なロックチューン。初出はシングル『Re:make / NO SCARED』だが、『残響リファレンス』では前述の“アンサイズニア”と続けて収録されることで、アルバム前半のロックなアタック感を担っている。この2曲はToru(G)×Taka(Vo)のソングライティングにより、ONE OK ROCKのディスコグラフィー上でも屈指のエキサイティングな時間となっているはずだ。
⑦The Beginning
この曲のタイトルは、2012年後半のツアータイトルにも採用された。重厚にしてラウドな響きの中にも、不思議と研ぎ澄まされた寂寥感を受け止めさせ、憂いを帯びたまま戦いへと赴く男の背中が浮かび上がるようだ。アリーナ以上の規模感が当たり前になったバンドの新章を告げ、そして映画『るろうに剣心』シリーズとのタッグのはじまりの一曲でもある。アルバム『人生×僕=』には映画やゲームのテーマ曲が数多く収録され、ONE OK ROCKの楽曲は映像を伴うエンターテインメントの世界でも広く活躍することになった。
⑧Nothing Helps
一聴すると、ストレートな疾走感と熱いエモーションを伴って駆け抜けるロックチューンに思われるかもしれないが、決して勢い任せではなく、玄妙な匙加減で重ねられるサウンドやコーラスの奥ゆかしいアレンジが光っている。ライブの規模感に相応しいサウンドの密度と質量が、スタジオ音源の創意工夫として実感できるプロダクションだ。クリエイターとしての孤独な闘いが率直に綴られながらも、向き合い続けるべき《you》の確かな存在感が織り込まれた歌である。
⑨Mighty Long Fall
こちらは映画『るろうに剣心 京都大火編』主題歌。過去作でミキシングを担当していたバンドマン兼プロデューサーのジョン・フェルドマンが、本作では共同プロデューサーとして携わった。人力の16ビートが焦燥感を駆り立てつつ、Takaの歌は情緒たっぷりのメロディ歌唱として展開。幻惑的なサウンドスケープも印象的だ。深淵へと転げ落ちた魂が悲痛な叫び声を上げ、奈落の底で再起を図る。そんなドラマティックな楽曲になっている。後のアルバム『35xxxv』は自身初の「オリコン週間アルバムランキング」1位を記録した。
⑩Eye of the Storm
海外におけるアメリカのフュエルド・バイ・ラーメンへの所属レーベル移籍後、2作目となるアルバム『Eye of the Storm』のタイトルチューン。様々な海外プロデューサーとの共同作業をさらに意欲的に推し進めた作風だが、散漫な印象にならなかったのは強固なビジョンの賜物だろう。フューチャーベースのグルーヴ感を採用したエモーショナルなロックソングであり、暗く激しい流れの中をもがくようにしながら、光明を探し求めている。宛てのない、斬新なサウンドデザインのロックを手探りで掴もうとする渦中の、ONE OK ROCKの姿だ。