ハロー!プロジェクト発の女性アイドルグループ、
モーニング娘。(2014年以降の正式名称は当該年の西暦下2桁を末尾に付け「モーニング娘。'○○」)。テレビ東京『ASAYAN』でのオーディション企画「
シャ乱Qロックヴォーカリストオーディション」で惜しくも最終選考で落選した5人により結成され、1998年にメジャーデビュー。以降、加入と卒業を繰り返しながら進化するグループとして第一線で活躍してきた。長年活動しているグループだけあって、ファンの数だけ心の名曲はあると思うが、ここではモー娘。の膨大なディスコグラフィから「まずはこれを」という10曲を紹介していきたい。なお、②、③、④、⑥、⑦は2013年リリースの『The Best!〜Updated モーニング娘。〜』にリアレンジバージョンが収録されている。過去の名曲やOGの活動などに度々スポットが当たるのは現役メンバーが誠実な活動をしている証でもあるので、最新の彼女らをぜひチェックしてみてほしい。(蜂須賀ちなみ)
①モーニングコーヒー
言わずと知れたメジャーデビュー曲。伴奏はビートとコードのみで非常にシンプル。メンバーの歌唱力の高さを活かした、コーラスワークで魅せるアレンジとなっている。「初めてのお泊り」というテーマは一歩間違えると生々しくなってしまう危険性があるが、歌声とサウンドに清潔感があるため嫌らしさはなく、抑制を効かせた表現がちょっとした背伸びと恥じらいの気持ちを上手く体現している。因みにモーニング娘。'17によるリメイク曲“モーニングみそ汁”は、キャンプファイヤーを楽しむミュージックビデオ(
MV/
キャンプファイヤー Ver. )でメンバーが見せる笑顔が最高。こちらもぜひ見てみてほしい。
②LOVEマシーン
モー娘。初のミリオンセラーを記録した大ヒット曲。この曲のヒットを機に「ディスコソング=モー娘。っぽい」というイメージが定着した印象がある。金髪の13歳・後藤真希の加入に当時衝撃を受けた人も多かったと思うが、改めて聴いてみると歌割りがかなり細分化されており、明確なメインボーカルが存在しないほか、目立つパートを担当するメンバーが一人に偏っていないのも特徴的である。「エースはいるがみんなが主役になれる」というモー娘。の哲学とドラマ性、名フレーズ《どんなに不景気だって/恋はインフレーション》などに反映された時代性を捉える手腕、そして誰でも真似できるコミカルなダンス――といった3つ要素が上手く噛み合い、平成を代表するヒット曲が誕生した。
③恋愛レボリューション21
さりげない押韻を忍ばせつつ、ファンク系のノリで踊らせるAメロ。明るい響きのBメロで次なる展開に行くと見せかけ、かの有名な≪超超超 いい感じ 超超超超いい感じ≫と繰り返すパートへ。それでもまだサビに行かず一旦イントロに戻って、さんざん焦らしてから満を持してのサビ。後半に差し掛かるにつれ、ラップMCや女声コーラスも盛り上がり、掛け合いコーラスがガヤ化。最後にはシンセも前面に出てくるみんなで大団円! と思いきやイントロで使用した「フフフフ、フゥ~!」という掛け声で締め括られているため、もう一度再生したくなってしまう。……何という中毒性の高さだろう。音楽的にめちゃくちゃ凝っているのに難しく聞こえさせないという、つんく♂とダンス☆マンのアレンジの凄腕っぷりが発揮された最強のパーティーチューン。
④ザ☆ピ〜ス!
中澤が卒業してから初のシングル曲。頼れる最年長メンバーが卒業したこともあって、結束が固かったこの9人には華やかな存在感があり、その隙の無い布陣から「黄金の9人」とも呼ばれている。日常での些細な出来事を取り上げ、その一つひとつを喜ぶような歌詞はとびきりハッピーなものだ。この曲がリリースされた2001年7月末は、第19回参議院議員通常選挙の真っ最中。≪選挙の日って ウチじゃなぜか/投票行って 外食するんだ≫というフレーズは今でも選挙の度に話題に上がるが、子どもの頃はよく分からなかったこの歌詞の意味を、大人になってから理解できるようになったという人も多いのでは。人々の心に残り続けたポップソングだからこその魔法を長きにわたり発揮し続けている曲。
⑤シャボン玉
6期メンバー(藤本美貴、亀井絵里、道重さゆみ、田中れいな)加入後初のシングル曲。加入直後の田中のソロから始まるという点が当時衝撃的だった。因みに田中は自身の卒業公演のラストナンバーにこの曲を選んでおり、彼女にとっても思い出深い曲であったことが窺える。ドスを効かせるような歌い方をしたり、巻き舌を取り入れたり、力いっぱい叫んだりと、これまでの曲とは異なるアプローチで女性特有の泥臭さが表現されている。水しぶきをバシャバシャと上げながらメンバーが踊るMVも印象的だ。
⑥歩いてる
シンプルだが奥深い言葉で綴る人生応援歌。メンバーの自然体の魅力が際立つ、やわらかな雰囲気のあるミディアムバラードだ。“歩いてる”は道重さゆみが特に愛した曲であり、『The Best!〜Updated モーニング娘。〜』ではソロでセルフカバーしている。ここで私が長々とレビューを書くよりも、彼女の想いが詰まった
解説動画を見てもらった方がきっといいだろう。カップリングの“踊れ!モーニングカレー”はとびきりコミカルな曲であり、このギャップもまたモー娘。の持ち味の一つだと再認識させられる。
⑦One・Two・Three
2012年4月リリースのシングル『恋愛ハンター』以降、EDM路線に傾倒していったモー娘。。今でこそEDMを取り入れた曲はアイドルでもバンドでも少なくないが、それをいち早く取り入れたのはモー娘。だったのだ。記念すべき50枚目のシングルの表題曲“One・Two・Three”はそんな「2012年以降」のモー娘。を象徴する曲。歌もダンスもクオリティが高いこのグループだからこその「激しく踊っても歌声がブレない」という長所は、EDMと相性抜群。クールなデジタルサウンドは彼女らがこれまで表現し続けてきた「誰にも媚びない女性像」とも上手く共鳴した。「Hello! Project ひなフェス 2016」ではファンを公言する女優・松岡茉優とのコラボパフォーマンスを披露し、話題に。
⑧わがまま 気のまま 愛のジョーク
この曲がリリースされた2013年といえば、アイドルを題材にしたNHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』が放送され、「アイドル戦国時代」という言葉や地下アイドルが続々と生まれ続けている状況が一般層にも認知され始めた時期である。そんななか、モー娘。は老舗ならではの質の高いパフォーマンスでアイドルファンを魅了、「やっぱりモー娘。はすごい」と言わしめる存在になっていった。54thシングル表題曲“わがまま 気のまま 愛のジョーク”は、語感的に気持ちの良い言葉を使用するなど、“One・Two・Three”の頃より歌モノの要素が感じられる曲である。工藤遥が「道重さんっぽい曲」と評した両A面曲“愛の軍団”もカッコよくてそれゆえに泣ける名曲なのでお聴き逃しなく。
⑨What is LOVE?
もうここまで来たらライブ映像を見てほしい。ということで、2014年にリリースされたトリプルA面シングルから“What is LOVE?”をピックアップしたい。超ハイテンポなうえにシャッフルビート。これほど複雑な曲で一糸乱れぬダンスをし、そのうえカメラに爽やかな笑顔を向けられるアイドルなんて、彼女たちぐらいしかいないだろう。つんく♂による歌詞も冴えわたっており、特に≪たった一人を納得させられないで/世界中 口説けるの≫というフレーズはもはや格言レベルである。通常のMVに加え、YouTubeでは、メンバーのパフォーマンスを定点カメラで捉えた「Dance Shot Ver.」も公開中。
⑩青春Night
2019年6月リリースの両A面シングルに収録。ハイテンションなディスコナンバーであり、ラップアレンジはなんと
Miss Mondayが手掛けている。ラップ部分は入れ替わり立ち替わり言葉で畳みかける疾走感が痛快で、メンバーそれぞれのボーカル技術の成熟が窺える。また、往年の日本語ヒップホップのモチーフが散りばめられているため、そういった観点でも楽しむことができるだろう。伝統も革新もないがしろにせず、進化を続けるモー娘。の真骨頂、ここにあり。