2009年に大阪で結成されたロックバンド、
ハンブレッダーズ。紆余曲折を経ながらも決して止まることなく続いてきたバンドは、2020年、ついにメジャーデビューを果たした。ムツムロアキラ(Vo・G)の書く、リアルと夢の両方をまとめて見せてくれるような歌詞と、ギミックなしのアンサンブルでバンドのかっこよさや楽しさを実感させてくれるサウンドは、今まさに、多くの人の日々に欠かせない存在になりつつある。そんなハンブレッダーズのディスコグラフィから、これぞハンブレ!な名曲10曲をセレクト。バンドの姿勢やメッセージも感じられるこの曲たちで、改めて彼らの魅力を発見してほしい。(小川智宏)
①ファイナルボーイフレンド
アッパーな曲ももちろんいいが、バラードやミドルチューンもまたハンブレッダーズというバンドの真骨頂だと思う。ムツムロのちょっとうわずったような声と言葉を投げつけるように自然とスタッカートするその歌い回しが、感情が思わず溢れ出してしまったような切なさを助長するのだ。その中でも珠玉といえるのがこの“ファイナルボーイフレンド”だろう。《1秒間の幸せも 逃したくないから/迷惑じゃなければずっと そばにいて》というこのラブソングのピュアさといったらない(「そばにいるから」じゃなくて「いて」なのがムツムロっぽいが)。歌詞もストレートならメロディもアレンジもど真ん中、この曲の良さは時代がどうとかバンドシーンがどうとかいうレベルを遥かに超越している。オリジナルもいいが、シングル『ワールドイズマイン』のカップリングとして再録されたバージョンが、少し大人になった感じがしてますます切なくてよい。
②CRYING BABY
「音楽とは」、「バンドとは」、「ロックとは」というテーマの曲がハンブレッダーズには多いが、この“CRYING BABY”はその「実践編」といえるかもしれない。ハンブレッダーズから、どこか知らない場所で彼らの音楽を聴いているファン・リスナーへのラブソングとして書かれた1曲だ。《涙の理由を僕にだけ話してよ/閉じた心を少しだけ開いてよ》と相手の不安や苦しみを大きく包み込む歌詞のメッセージも素晴らしいが、それと同時に音楽的にもそれまでのハンブレッダーズにはなかったスケールの大きさを表現しきった楽曲でもある。弾むリズム、2番のギターアレンジのキラキラとしたサウンド、一つひとつの音が開放的で、リスナーに「心を開いて」と歌いかけるのと同時に、ハンブレッダーズ自身が自分たちの心の窓をバンバン開けていくのがわかる。『イマジナリー・ノンフィクション』というアルバムのテーマとも密接に結びついた名曲。
③銀河高速
ロックバンドには転機やその後のキャリアの支えとなる「運命の曲」があるが、現時点でハンブレッダーズにとってのそれはこの“銀河高速”をおいて他にないだろう。2019年5月、オリジナルメンバーだったギターの吉野エクスプロージョンがサポートとなり、3人組に体制変更したハンブレッダーズ。その発表直後に公開されたのがこの“銀河高速”のミュージックビデオだった。ハンブレッダーズのそれまでの歩み(その時点でムツムロが高校1年生でバンドを結成してから約10年が経っていた)を振り返って書いたというこの曲。かき鳴らされるギターのコード、絶対に止まらないエイトビート、《時代の波ならば HIP HOP/イマドキ女子は皆 Tik Tok》と時代の逆風を感じながらもガチガチに固い韻でヒップホップに真正面から勝負を挑み、バンドをやり続けてきた日々の光も闇も照らし出しながら、ムツムロは《続けてみることにしたよ》と歌う。きっと何度でも立ち返る、彼らの新たな「原点」だ。
④ユースレスマシン
メジャーデビュー作となったアルバム『ユースレスマシン』のタイトル曲、そしてオープニングナンバーとして、まさにハンブレッダーズの新たなテーマソングとなった1曲。この曲で歌われるテーマ自体は、たとえば前作『イマジナリー・ノンフィクション』の“弱者の為の騒音を”などにも通じるもので、要するに「自分たちがバンドで音楽を鳴らしている理由」を歌ったものだ。だがこの曲の歌詞がすごいのはそこから「自分たちが」という一人称の主語をぶっちぎってしまったところにある。エクスキューズなし、断定的で普遍的な歌詞の語り口、そして《世界を変える娯楽を》という、ロックミュージックの真理をズバッと言い切ってしまったキラーフレーズ。大袈裟ではなくこの曲が生まれた瞬間、ハンブレッダーズはロックバンドの未来を背負ったのだと思う。怒涛のように押し寄せるコードとビートが、バンドの揺るぎない意思を物語る。
⑤約束
MV曲でもないし、アルバム『ユースレスマシン』の中ではもしかしたら地味めな存在かもしれないが、個人的にめちゃくちゃ大好きな曲がこれ。
アジカンの“リライト”をちょっと彷彿とさせる抑制されたAメロのメロディラインからスコーンと突き抜けるサビのハイトーンへ。ムツムロのボーカルの二面性をよく表現した展開もいいし、木島(Dr)のシンプルなビートとでらし(B・Cho)のベースラインからなるリズム隊が一貫して楽曲の駆動輪となっているのも骨太でいい。そして何よりムツムロの歌詞だ。どちらかといえば堅い言葉を駆使して細部に至るまで描き切る、いい意味での理屈っぽさみたいなものがムツムロの詞の特徴だが、この曲では《泡沫》とか《徒花》とかハンブレッダーズ的には珍しい単語を使いながら、淡い色彩で風景を描くような歌詞を書いている。いいメロ、いいバンド感、いい歌詞の三拍子が揃った、隠れた名曲だと思う。
⑥聞こえないように
“ファイナルボーイフレンド”と双璧を成す(と思っている)、ハンブレッダーズの名バラード。好きだという気持ちを直接伝えられず、「聞こえないように」呟いておきながら《聞こえてないのを確かめて/すこし がっかりした》という(面倒くさい)男心がものすごくリアルだ。《夕日を纏って歩く君の/影の先っぽあたりを歩いてたんだよ》とも言っているから、たぶん照れ臭くて顔も見られず、少し後ろを歩いているんだろう。わかる。きっと成就することも、それ以前に始まることもなく終わっていくのであろう恋。そんな情けない恋を支えるバンドのサウンドも素晴らしい。控えめに鳴るアコースティックギターやピアノの音色が柔らかな空気を作り、ゆったりと刻まれる抑えたリズムが高鳴る鼓動を表現する。そしてムツムロの歌。初めて聴いた時はこんな歌も歌えるんだと驚いたくらい、優しくて穏やかな声を聴かせてくれる。
⑦ライブハウスで会おうぜ
2020年、新型コロナウイルスの影響でライブが次々と延期・中止となっていく中、ハンブレッダーズはすぐさま動き、この曲を制作・発表した。公開されたのは4月1日で、相当早いアクションだった。タイトル通り、ライブハウスという場所とそこに集まる人への愛情と共感と《僕たちの音楽よ このまま鳴り止まないで》という願いをストレートに綴った歌詞、シンプルなコード進行、ドシャドシャとバカでかいシンバルの音にぶっといベース、そしてみんなで《ライブハウスで会おうぜ》とユニゾンするサビ。すべてが無邪気なまでにまっすぐで、だからこそ本質的で心に刺さる。たぶん秒で書いて秒で録ったのだろう、その走り抜けている感じが、本当に大事なものを教えてくれる気がする。もちろん時代の状況ありきで生まれた曲だが、シンプルがゆえに何年経ってもブレない強さを持った曲でもあると思う。
⑧COLORS
記念すべきメジャー初のシングルとして、そしてTVアニメへの書き下ろし曲としてリリースされた“COLORS”。木島によるスネアのロールから始まっていくイントロで一気に気分が高まる、新しいフィールドへ突入していく決意と勢いを注ぎ込んだBPM194のアッパーチューンだ。自分で自分のケツを蹴り上げるようなムツムロの歌詞には、希望も苦悩も不安も気合いも、全部がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。希望100%でも絶望100%でもないところが重要、というかムツムロアキラという人の作詞家としてのいいところで、その姿勢はこのイケイケドンドンのタイミングで《酸いも甘いも塩辛いも 噛み分けてさ》と書いている通り、あるいは《幸せは泡沫さ》と言い切っちゃっている通り一貫している。結果として、状況が今までと一変してしまった世界になってしまった中でも、この曲のリアリティとメッセージ性はまったく揺るぐことがなかった。
⑨再生
メジャー2ndアルバム『ギター』のオープニングを飾る1曲。“DAY DREAM BEAT”しかり、“弱者の為の騒音を”しかり、“ユースレスマシン”しかり、アルバムの1曲目にはバンドとしての姿勢と音楽への思いを綴った曲を持ってくる(というか、たぶん強い曲は自然とそういう内容になっていくのだと思う)ハンブレッダーズだが、この曲もまさにそう。《⼈混みの中でひとりになる為の秘密兵器》である音楽との出会い、そしてその瞬間から変わった人生。加えてこの曲には、コロナ禍を通過したからこそより強くなった「止めない」、「続ける」という決意がみなぎっている。《理不尽や絶望じゃ/⽌められやしないんだ/僕達の再⽣を》というフレーズが単に「音楽」という枠を超えて今を生きるすべての人へのエールのように響いてくるのは、3人の中で「音楽をやる」、「バンドをやる」ということの意味が、さらに一段大きなものに変化したからだろう。
⑩君は絶対
名曲揃いのニューアルバム『ギター』の中でも、メッセージ性、そしてそれを伝えるという思いの強さという意味で、この“君は絶対”はとても重要だと思う。多重録音された《君は絶対 ひとりになれない》という歌から始まるこの曲のキモは、「絶対」という強い言葉をあえてタイトルに使っていることからもわかる通り、ムツムロが何がなんでも言いたいことだけを詰め込んだような歌詞。巧いとか下手とかではない、思いだけをぶつけるような歌詞は実はムツムロの新境地だと思う。歌を前面に押し出した1番から、力強くスケールの大きなリズムが全体を牽引する2番へ。バンドだからこそ鳴らせるパワーで、バンドだからこそ伝えられるメッセージをはっきりと伝える後半の展開に息を呑む。そして最後の《ひとりにさせない》という1フレーズ、これがムツムロが本当に言いたかったことだ。その次に “ライブハウスで会おうぜ”がくるというアルバムの構成も含めて、これまでにはなかったハンブレッダーズを感じさせる1曲。
現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』12月号にハンブレッダーズが登場!