サンボマスターは正義のバンドだ。これまで何度、彼らの音楽に励まされてきただろう。人生は楽しいことばかりではないし、むしろ辛い感情の方が多いし、誰かと笑い合っていてもSNSで繋がっていても、ふと冷静になった瞬間に自分の中に潜む「孤独」が襲い掛かってくる。そいつに引っ張られてネガティブの底に堕ちていきそうになる時、サンボマスターのロックンロールは光の方に引き戻してくれる。そうやって彼らは、大勢の人の孤独な心を励まし続けてきた。きっとサンボマスターの曲を聴いたりライブを観たりして、落ち込んだことがある人なんてひとりも生まれていない。それはやっぱり正義ってやつなんだと思う。いつもありがとう、サンボマスター!! そんな気持ちを込めながら、逆境の時にこそ聴いてほしい名曲10を振り返っていきます。(渡邉満理奈)
①美しき人間の日々
「人の心に入っていく音楽を時代に鳴り響かせる」という使命を背負い、それをやり遂げる覚悟が形になった1stシングル曲。そしてここからサンボマスターが歌う「あなた」は、一人ひとりに向けた呼びかけとしてもっと親密に届くようになっていった。2ndアルバム『サンボマスターは君に語りかける』収録バージョンに綴られる《昔の手紙を思い返してもそこには何もありませんよ》、《過去は捨てたぜ/今を生きろよ》、そんな歌詞が気付かせてくれるのは、過ぎ去った日々よりも今この瞬間を全力で生きることがどれほど美しく、重要なのかということだ。
②そのぬくもりに用がある
サンボマスターの初期を代表するソウルフルなナンバー。オナニーマシーンとのスプリットアルバム『放課後の性春』と、その後に発表された1stアルバム『新しき日本語ロックの道と光』に収録され、それぞれ山口隆(唄とギター)の語りが違っている。人と繋がるということは時に傷つけたり傷つけられたり、裏切りや諦めだってあるだろう。その悲しさや寂しさを知っていても、私たちは誰かと深く繋がらずには生きていけない。そんな綺麗事だけでは語れない人間同士の愛の本質が《ぬくもりという名のケモノ道》というフレーズで表現されている。
③歌声よおこれ
日本語ロック史を語る上で欠かせない名盤『サンボマスターは君に語りかける』。私も10代でこのアルバムに出会い、擦り切れるほど聴きまくった。同作の1曲目に収録されている“歌声よおこれ”は、音楽が起こす奇跡が広がっていく光景を想像させる。奇跡と言っても大げさなことではなく、例えば歌声が響き合う間だけは悲しい思い出が薄まったり、幸せな気持ちになれたり、自然と笑顔がこぼれたり。実際にサンボマスターのライブは、数え切れないほど沢山の奇跡を起こしてきただろう。
④世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
あなたの憎しみも裏切りも全て「愛」に変えてしまう最強ラブソング。もはや説明不要の大ヒットドラマ『電車男』(2005年)のエンディングテーマで、サンボマスターの名を一気にお茶の間まで広げた重要な一曲だ。こんなにも切実で真っ直ぐな《愛と平和!》という叫びを轟かせたのは、ロックバンドとして大きな功績と言えるのではないか。この曲はMVもインパクトがあって、日常の中にサンボマスターの3人が現れては所構わず歌い出すというユニークな作品だった。
⑤光のロック
2007年にリリースされた11枚目シングル。ドラムロールが疾走感を煽るストレートなロックナンバーで、映画『劇場版BLEACH The DiamondDust Rebellion もう一つの氷輪丸』の主題歌にもなった。《今まで君が泣いた事 はにかんだ言葉で話してよ》、《君のことだけ考えさせておくれ!》、そう呼びかける歌詞は、若さゆえの純粋な恋心を感じさせる。きっとこの曲に出てくる主人公は、危なっかしいほどに愚直で勇敢な心を持った少年なのだろう。世の中の悪意から逃れるように、暗闇を全速力で駆け抜けていく少年少女の姿が浮かび上がってくる曲だ。
⑥ラブソング
会えなくなってしまった人のことを歌ったバラード曲。
2017年に行われた日本武道館公演のMCで山口は、東日本大震災の後にこの曲を演るのはやめようと思っていたことを明かした。そして「大切な人を思い浮かべて聴いてくれ」という言葉に続いて演奏されたあの日の“ラブソング”を思い出すと、今でも胸が熱くなる。《君と過ごした日々は 忘れるなんてできないんだよ》。それでもその思い出こそが、カラッポになってしまった《僕》を埋めていく光なのだ。
⑦できっこないを やらなくちゃ
2010年にシングルリリースされた作品だが、それから約8年後にドラマ『チア☆ダン』で再び注目を集めた。というのもドラマのモデルになった福井商業高校チアリーダー部「JETS」にとって“できっこないを やらなくちゃ”は、創部当初から踊り続けている大切な曲。地上波でサンボマスターの生演奏と「JETS」によるチアダンスのコラボステージが披露された際には、Twitterでも大きな反響があった。聴いているだけでポジティブなパワーがみなぎってくる応援ソングだ。
⑧ロックンロール イズ ノットデッド
《どれだけの悲しみがあったのか 今僕に話してくれないか》、そんな歌詞から始まるこの曲は、何があってもロックンロールを鳴らし続けていくという力強い決意を感じさせる。サンボマスターのメッセージは必ず「君と僕」がセットになっていて、言葉だけじゃなく行動を起こす勇気も授けてくれる。だから一緒に声を合わせたくなるし、拳を突き上げたくなるのだ。《生きてみたいから生きてみたい 死んで花実など咲くものかよ》、胸に突き刺さるその訴えは、どんなに落ち込んでいても生きている今を黄金のように輝かせる。
⑨ミラクルをキミとおこしたいんです
ライブではまさに「ミラクル級」に盛り上がるダンスナンバー。「ロックンロールは別に俺たちを苦悩から解放してもくれないし、逃避させてもくれない。ただ悩んだまま踊らせるんだ」――ピート・タウンゼントのこの名言は、確かにその通りだと思う。でも《悲しむより踊りまくって 奇跡の日々を始めようぜ》と歌うこの曲は、自分の気持ちを高めることが可能性を広げていく原動力にもなると教えてくれる。サンボマスターのロックンロールは、悩んだままだって最高なのだ。
⑩輝きだして走ってく
ドラマ『チア☆ダン』の主題歌に起用された曲。キラキラ光る汗をイメージさせる爽やかなメロディと、頑張っている人の背中を押す歌詞は、ドラマの世界観にもピッタリだった。そして現在YouTubeにアップされているMVのコメント欄は、青春真っ只中の学生たちによる書き込みで溢れている。『サンボマスターは君に語りかける』を聴きまくっていたあの頃の私のように、今の10代もサンボマスターに励まされているのだろう。結成から20年が経った今もなお、彼らの楽曲が幅広い世代に刺さることを改めて証明した一曲だ。